ティリンス

ギリシャのミケーネ文明を象徴する遺跡：ティリンス

ティリンスは、ギリシャ南部のペロポネソス半島アルゴリス県に位置する、ミケーネ文明の遺跡です。ナフプリオの北にあり、古代ギリシア語では「Τίρυνς」、現代ギリシャ語では「Τίρυνθα」と呼ばれ、日本語ではティリンス、あるいはティリンタとも表記されます。

この遺跡は、青銅器時代初期から実に7000年もの間、丘の上の要塞として存在していました。最盛期は紀元前1400年から紀元前1200年頃で、当時、地中海世界において重要な役割を果たしていたと考えられています。

ティリンスの最も顕著な特徴は、なんといってもその壮大な城壁です。巨大な石を積み上げたサイクロプ式建築（巨石積み）で築かれたこの壁は、ホメロスによって『強力に囲まれたるティリンス』と称賛されたほど、堅牢で威圧的なものでした。この城壁に守られた内部には、ミケーネ文明らしい宮殿や、複雑な地下道などが存在していました。

ティリンス宮殿の中心は、メガロンと呼ばれる大広間です。このメガロンは、広々とした客間と主室から構成され、主室には玉座が置かれ、中央には4本のミノス様式の木柱が屋根を支えていました。柱の周りには炉床があり、王族や有力者たちが集い、儀式や宴会が行われたと考えられています。興味深いことに、メガロンの壁の一部は、後の時代に建てられたヘーラー神殿に再利用されています。

ティリンスとヘラクレス神話は密接に結びついており、いくつかの伝承では、ティリンスがヘラクレスの生地であるとされています。この神話が、ティリンスの歴史や文化にどのような影響を与えたのか、現代の研究においても重要なテーマとなっています。

ミケーネ文明の衰退とともに、ティリンスも紀元前1150年頃には衰退を始めました。2世紀に訪れたギリシャの歴史家パウサニアスは、既にその衰えた様子を記録に残しています。

1884年から1885年にかけて、ドイツの考古学者ハインリヒ・シュリーマンがティリンスを発掘調査を行い、ミケーネ文明研究に大きな貢献をしました。現在でも、ドイツ・アテネ考古学研究所やハイデルベルク大学などによって発掘調査が継続されており、新たな発見が期待されています。

ティリンスの歴史的・考古学的価値が認められ、1999年にはユネスコの世界遺産に登録されました。この登録は、ミケーネ文明の遺産保護と、世界中の人々への理解促進に大きく貢献しています。現在でも、ティリンス遺跡は多くの観光客を魅了し、古代文明への想像力を掻き立て続ける、貴重な存在となっています。

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