ハインリヒ5世 (神聖ローマ皇帝)

ハインリヒ5世：ザーリアー朝の終焉と神聖ローマ帝国の転換点

ハインリヒ5世 (1081年 - 1125年) は、神聖ローマ帝国を揺るがした叙任権闘争の渦中の人物であり、ザーリアー朝最後の皇帝として知られています。父ハインリヒ4世との複雑な関係、ローマ教皇との激しい権力闘争、そして諸侯の反乱など、波乱に満ちた生涯を送りました。彼の治世は、神聖ローマ帝国のあり方、そしてヨーロッパ史全体に大きな影響を与えました。

父への反逆とローマ王への即位

ハインリヒ5世は、1081年、当時教会との激しい叙任権闘争の真っ只中にあった神聖ローマ皇帝ハインリヒ4世の次男として誕生しました。兄コンラートが教皇ウルバヌス2世に接近したため、ハインリヒ4世は1098年、ハインリヒ5世をローマ王位継承者と定めます。しかし、これはあくまで名目上のことであり、実権は父が握っていました。

ハインリヒ5世は、父との不和、そして諸侯の離反を危惧し、1106年、ついに父に反旗を翻します。有力諸侯やローマ教皇の支持を得たハインリヒ5世は、父帝の死後、正式にローマ王として承認されました。

叙任権闘争とヴォルムス協約

ハインリヒ5世は、長年続いてきた叙任権闘争の解決に奔走しました。1111年、ローマ教皇パスカリス2世とサンタ・マリア・イン・トゥーリ条約を結びますが、これは聖職者たちの反発を招き、失敗に終わります。その後、ハインリヒ5世は教皇を拘束し、ポンテ・マンモロ協約を強引に締結しました。しかし、この協約も長続きせず、ローマ教会はハインリヒ5世を破門します。

各地の諸侯も、皇帝の権威低下に乗じて反乱を起こします。ザクセン公ロタール3世率いる反乱軍は特に強大な勢力を誇り、ハインリヒ5世を苦しめました。幾度もの交渉の末、1122年、ヴォルムス協約が締結されます。この協約によって、叙任権闘争は一応の終結を迎えましたが、皇帝の権威は大きく低下しました。

ザーリアー朝の終焉

ヴォルムス協約後も、帝国内の混乱は収まりませんでした。ザクセン公の自立が進み、ハインリヒ5世は各地の諸侯の反乱を抑えるのに苦戦します。1125年、ハインリヒ5世は病気のため崩御。後継者不在のまま、ザーリアー朝は断絶しました。

ヴォルムス協約と神聖ローマ帝国の概念

ヴォルムス協約によって、皇帝は教会の叙任権に関して、表面上は大きな損失を被ったように見えません。しかし、実際には、神権的な皇帝権を失ったのです。それまで、ローマ皇帝は普遍的なキリスト教帝国の建設を理想としてきました。しかし、ヴォルムス協約によって、その理想は崩壊しました。

この後のホーエンシュタウフェン朝時代になって初めて「神聖帝国」という言葉が使われるようになり、中世西欧におけるローマ帝国の概念は大きく変化していきました。ハインリヒ5世の死は、単なる王朝交代ではなく、神聖ローマ帝国のあり方を根本から変える転換点であったと言えるでしょう。

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