ハガルとイシュマエルを追放するアブラハム

ハガルとイシュマエルを追放するアブラハム

グエルチーノの「ハガルとイシュマエルを追放するアブラハム」は、旧約聖書の創世記に記された物語を題材とした、17世紀イタリアバロック絵画の傑作です。1657年に制作されたこの絵画は、当時フェラーラに派遣されていた教皇特使ロレンツォ・インペリアーリ枢機卿に贈るために委嘱されました。現在はミラノのブレラ美術館に所蔵されており、その力強い表現と人物描写は見る者を魅了します。

作品の背景

この絵画の主題は、創世記に登場するアブラハム、妻のサラ、そしてサラの奴隷であったハガルとその息子イシュマエルの物語に基づいています。サラは高齢のため子供を授かることができず、自身の奴隷であるハガルをアブラハムに与え、ハガルはイシュマエルを産みます。しかし、その後サラも奇跡的にイサクを身ごもります。サラは、イシュマエルがイサクの相続権を脅かすことを恐れ、アブラハムにハガルとイシュマエルを追放するように求めます。アブラハムは神の指示を得て、最終的に彼女たちを送り出すことを決意します。グエルチーノはこの物語の中でも、アブラハムがハガルを追放するまさにその瞬間を描いています。

絵画の詳細

絵画に登場するのは、アブラハム、ハガル、イシュマエル、サラの四人です。アブラハムは髭を生やし、ターバンを巻いた伝統的な姿で描かれています。彼はハガルと向き合い、右手で母子の退去を命じ、同時に左手は祝福のジェスチャーを示しています。これは、彼の心が引き裂かれていることを象徴しています。ハガルは旅行用の袋を身に着け、悲しみに暮れています。彼女の腕の中には、泣きながら母親に寄り添うイシュマエルが描かれています。アブラハムの背後には、状況に責任があるサラが描かれています。彼女は背を向けていますが、会話に耳を澄ませている様子がうかがえます。人物たちの表情、ポーズ、そして配置は、この物語の複雑な感情とドラマを見事に表現しています。グエルチーノは、光と影のコントラストを巧みに用い、場面に力強さと深みを与えています。

作品の意義

「ハガルとイシュマエルを追放するアブラハム」は、旧約聖書の物語を題材としながらも、人間の普遍的な感情、特に愛、嫉妬、そして親子の絆を描いています。この絵画は、単なる宗教的な物語の再現ではなく、人間の心の葛藤、苦悩、そして救済を表現した作品として高く評価されています。グエルチーノの卓越した技術と人物描写によって、この場面は見る者の心に深く刻まれます。

参考文献

『ブレラ　絵画館全作品ガイド』、SCALA、1997年　ISBN 978-888117680-9
大島力監修『名画で読み解く「聖書」』、世界文化社、2013年　ISBN 978-4-418-13223-2

外部リンク

* ブレラ美術館公式サイト、グエルチーノ『ハガルとイシュマエルを追放するアブラハム』 (英語)

もう一度検索