ブレラ美術館

ブレラ美術館（Pinacoteca di Brera）は、イタリアのミラノに位置する、イタリア絵画を専門とする美術館です。日本語では「ブレラ絵画館」とも呼ばれます。この美術館は、ルネサンス期から20世紀に至るまでのイタリア美術の変遷を辿ることができる、非常に重要なコレクションを有しています。特に、ヴェネツィア派やロンバルディア派といった、ルネサンス期の北イタリア絵画の収集において、その質の高さと量において特筆すべきものがあります。また、中部イタリアの絵画にも、重要な傑作が多数含まれているのが特徴です。

歴史

ブレラ美術館の建物は、17世紀にイエズス会の施設として建てられました。その後、1772年に当時のロンバルディア王でもあったマリア・テレジアがこの施設を入手しました。1776年には、この場所に美術アカデミーが設立され、絵画の収集が開始されました。この美術アカデミーが、美術館の前身となります。

19世紀初頭には、ナポレオンの指示により美術館としての整備が進められ、1809年にはナポレオンの誕生日を記念して一般公開されました。その後、1882年には国立美術館として正式に開館し、現在に至っています。

ブレラ美術館が位置するブレラ宮の一角には、1764年に開設されたブレラ天文台（Osservatorio astronomico di Brera）があります。この天文台は、19世紀末から20世紀初頭にかけて、火星の「運河」を発見したことで知られる天文学者ジョヴァンニ・スキアパレッリが台長を務めていたことでも有名です。現在、天文台では天体望遠鏡などの歴史的な資料が一般公開されています。また、ブレラ天文台の隣には、1774年に開設されたブレラ植物園（Orto Botanico di Brera）があり、美術鑑賞と共に自然を楽しむこともできます。

主な収蔵品

ブレラ美術館は、イタリア屈指の絵画コレクションを誇ります。特にルネサンス美術を理解する上で、欠かすことのできない重要な作品が数多く所蔵されています。コレクションの中核をなすのは、ジェンティーレ・ダ・ファブリアーノ、アンドレア・マンテーニャ、ジョヴァンニ・ベリーニ、カルロ・クリヴェッリ、チーマ・ダ・コネリアーノ、ヴィットーレ・カルパッチョ、ティントレット、ヴェロネーゼといった、北イタリア、特にヴェネツィア派の画家たちの傑作です。これらの画家の作品は、その卓越した技術と豊かな表現力によって、観る者を魅了します。また、中部イタリアの画家では、ピエロ・デラ・フランチェスカ、ラファエロ、ブロンズィーノなどの代表的な作品も所蔵されており、イタリア美術史の重要な流れを辿ることができます。

17世紀から20世紀の絵画についても、カラヴァッジョ、ルーベンス、フランチェスコ・アイエツ、ジョヴァンニ・セガンティーニ、ウンベルト・ボッチョーニ、アメデオ・モディリアーニ、ジョルジョ・モランディといった、イタリアの画家を中心とした幅広いコレクションがあります。これらの作品は、各時代の芸術的潮流を反映しており、イタリア美術の多様性を感じさせてくれます。

主な収蔵作品としては、以下のようなものがあります。

ジェンティーレ・ダ・ファブリアーノ『ヴァッレ・ロミータの多翼祭壇画』（1410-1412年頃）
ステファノ・ダ・ヴェローナ『東方三博士の礼拝』（1434年）
ピエロ・デラ・フランチェスカ『ブレラ祭壇画』（1460年代末）
ジョヴァンニ・ベリーニ『ピエタ』（1460年）
カルロ・クリヴェッリ『サン・ドメニコ・ディ・カメリーノの祭壇画』(1482年) 、『ロウソクの聖母』(1490年以降)
アンドレア・マンテーニャ『死せるキリスト』（1497年以降）
ラファエロ『聖母の結婚』(1504年)
チーマ・ダ・コネリアーノ『殉教者聖ペテロと聖ニコラウス、聖ベネディクトゥス』(1505-1506年)
ジェンティーレ・ベリーニとジョヴァンニ・ベリーニ『アレクサンドリアでの聖マルコの説教』(1504-1507年)
ヴィットーレ・カルパッチョ『聖ステパノの議論』(1514年)
ティツィアーノ・ヴェチェッリオ『アントニオ・ディ・ポルチア・エ・ブルニェーラ伯爵の肖像』(1535-1540年)
ロレンツォ・ロット『ラウラ・ダ・ポーラの肖像』(1543-1544年)
ティントレット『聖マルコの遺骸の発見』(1548年頃)
ヴェロネーゼ『シモンの家の晩餐』(1567-1570年)
カラヴァッジョ『エマオの晩餐』(1606年)
フランチェスコ・アイエツ『接吻』(1859年頃)

ブレラ美術館は、イタリア美術を愛する人々にとって、絶対に外すことのできない美術館と言えるでしょう。

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