ハガルの追放 (ステーン)

ヤン・ステーンの「ハガルの追放」

「ハガルの追放」（Die Verstoßung der Hagar）は、17世紀のオランダの画家、ヤン・ステーンによって描かれた油彩画です。この作品は、彼がデルフトに移住した後の1655年から1657年の間に制作され、現在はドレスデンのアルテ・マイスター絵画館に収蔵されています。ステーンは同じテーマの絵を他にも2点描いており、本作がその一つです。

作品の背景と主題

本作のテーマは、「旧約聖書」の「創世記」に由来しています。具体的には、ハガルという女性がアブラハムの妻サラの奴隷として登場する物語が描かれています。アブラハムとサラの間に子供が生まれず、86歳のサラは自らの宰相としてハガルにアブラハムとの関係を持たせ、イシュマエルを授かります。ところが、その後サラが懐妊し、イサクを生むと、彼女はハガルとイシュマエルを疎んじるようになります。最終的にアブラハムはサラの頼みを受け入れ、ハガルとイシュマエルを追放してしまいます。

この絵画には、サラとイシュマエルが追放されるシーンが描かれており、ステーンは17世紀オランダの巨匠レンブラントのエッチングを基にしています。ただし、彼はオリジナルを左右逆にし、さらに独自の解釈を加えています。実際、アブラハムがハガルに対し見せる優しさや、遊んでいるイシュマエルの笑顔は、レンブラントの作品に見られる冷淡さとは異なり、より温かい感情を表現しています。

絵画の特徴

ステーンは細部にわたって17世紀のオランダの風俗を再現しており、ハガルの服装や旅の準備、画面の左側で実子のイサクの頭からシラミを取り除くサラの姿など、当時の生活様式が表現されています。また、画面にはイシュマエルが興味津々で遊んでいる様子が描かれており、彼が後に弓使いとして成長し、アラブ人の祖先になることが示唆されています。

作品の中には動物たちも描かれ、全体として物語の舞台を豊かに表現しています。絵の構図や色使い、人物の表情などは、観る人に深い印象を残します。ステーンの巧妙な手法によって、ただの物語の一場面が、複雑な人間関係や感情を豊かに表現するものとなっているのです。

「ハガルの追放」は、単なる旧約聖書の物語を超えて、17世紀のオランダの社会や価値観を反映した重要な作品といえます。美術史における位置づけや、他の作品との関係性を考察することも、この絵画を理解する上で有意義なアプローチとなるでしょう。

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