ハシグロクロハラアジサシ

ハシグロクロハラアジサシ：その生態と特徴

ハシグロクロハラアジサシ( Chlidonias niger)は、カモメ科に分類される中型の鳥類です。その名前の通り、黒い嘴と腹部が特徴的な見た目から容易に識別できます。本種は、世界的に見ると広く分布していますが、日本においては比較的珍しい旅鳥として知られています。

広い分布域と渡り

繁殖地はヨーロッパ東部から西シベリア、そして北アメリカ中部と、ユーラシア大陸と北米大陸にまたがります。越冬地は、アフリカ大陸、中央アメリカ南部から南アメリカ北部へと、広範囲に渡って分布しています。このように、ハシグロクロハラアジサシは長距離の渡りを行う鳥類であることが分かります。

日本では、本州、四国、南西諸島といった地域で観察記録がありますが、その数は決して多くありません。目撃例の大半は7月から10月にかけての期間に集中しており、渡りの時期に日本列島に立ち寄る個体であると推測されます。

羽衣の変化：夏羽と冬羽

ハシグロクロハラアジサシの羽衣は、季節によって変化します。繁殖期である夏羽では、頭部から腹部にかけてが黒く、背と肩羽は灰黒色、腰と尾は灰色、下尾筒は白いという、コントラストの強い美しい羽色をしています。一方、非繁殖期である冬羽では、頭部から腹部にかけて白い羽衣に変化し、体の上面は灰色になります。ただし、後頭部には黒褐色の斑が残るため、冬羽であっても容易に識別可能です。雌雄で羽衣に違いはありません。

生息環境と食性

ハシグロクロハラアジサシは、海岸や干潟、河川、湖沼など、水辺環境を好んで生息します。繁殖期には主に淡水域を、非繁殖期には海水域とその周辺部を主な生息場所として利用することが知られています。その生態は、近縁種であるハジロクロハラアジサシと多くの共通点があります。

食性は動物食で、小魚や昆虫類を主な餌としています。水面上を低空飛行しながら、水面近くにいる小魚や昆虫を巧みに捕食する様子は、他のアジサシ類と同様に、見ごたえのある光景です。

繁殖方法

繁殖形態は卵生です。湿原や湖沼の浅瀬に営巣し、水草やアシなどの植物を積み重ねて浮き巣を作ります。場合によっては、地面に枯れ草などを敷いて営巣することもあるようです。一腹に産む卵の数は2個から4個で、抱卵期間は約14～16日間です。抱卵は雌雄共同で行い、子育てには親鳥双方がかかわります。

鳴き声

ハシグロクロハラアジサシの鳴き声は、「キーキー」や「キューキュー」といった甲高い声で、遠くからでも聞き取ることが出来る場合があります。鳴き声も、その生態を知る上で重要な手がかりとなります。

まとめ

ハシグロクロハラアジサシは、その美しい羽衣、長距離の渡り、そして独特の生態から、鳥類愛好家にとって魅力的な鳥類の一つです。日本においては希少な旅鳥ですが、もし出会う機会があれば、その特徴的な姿と鳴き声をじっくりと観察してみてください。今後、より多くの観察記録が集積されることで、この種の生態に関する理解がさらに深まることが期待されます。

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