ハスケル・ウェクスラー

ハスケル・ウェクスラー：反骨の映像詩人

ハスケル・ウェクスラー (1922年2月6日 - 2015年12月27日) は、アメリカ映画史に燦然と輝く撮影監督、映画監督である。イリノイ州シカゴ出身の彼は、資産家の父の後押しで映画スタジオを設立するも、経営難により閉鎖。その後は撮影助手としてキャリアを積み重ねた。

伝説のカメラマンとの出会い

ジェームズ・ウォン・ハウという伝説的なカメラマンの下でカメラオペレーターを務めた経験は、彼の技術を飛躍的に向上させた。同時に、政治的な関心の高さから数多くのドキュメンタリー映画制作にも携わるようになる。この経験が、後の彼の映画作りのスタイルに大きな影響を与えることになる。

劇映画への進出と革新的な撮影手法

ドキュメンタリー監督であるアーヴィン・カーシュナーとの協働を経て、ウェクスラーは劇映画の世界へ足を踏み入れる。フランクリン・J・シャフナーやトニー・リチャードソンといった新鋭監督の作品で撮影監督を務め、当時としては画期的な手法を積極的に採用した。手持ちカメラ、屋外ロケ、ズームレンズ──それらは当初、前衛的で批判の的にもなったが、やがて斬新な映像表現を求める監督たちの注目を集めていく。

アカデミー賞受賞とハリウッドでの成功

1966年、マイク・ニコルズ監督の『ヴァージニア・ウルフなんかこわくない』でアカデミー撮影賞を受賞。望遠レンズや手持ちカメラを駆使した、リチャード・バートンとエリザベス・テイラーの迫真の演技を捉えた映像表現は、高く評価された。その後も、『夜の大捜査線』『華麗なる賭け』『カッコーの巣の上で』など、数々のヒット作で撮影監督を務め、アメリカ映画界を代表する存在となった。1975年には『ウディ・ガスリー/わが心のふるさと』で二度目のアカデミー撮影賞を受賞。さらに、『メイトワン1920』『プレイズ』でもノミネートされるなど、その評価は不動のものとなった。

独立精神と反骨の姿勢

ウェクスラーは、リベラルな思想を持つ映画人として知られていた。ベトナム戦争中の1960年代から70年代中盤にかけては、反戦をテーマにした作品を数多く手がけた。監督も務めた『アメリカを斬る』では、1968年の民主党大会での暴動を描写し、『敵に対する序論』ではジェーン・フォンダと共に北ベトナムを取材した。これらの活動は、彼を当局の監視対象とし、作品の上映にも圧力がかかることとなった。しかし、その反骨精神と高い映像技術は、多くの人々の共感を呼び、映画界において確固たる地位を築いた。

教育者としての顔と多様な活動

南カリフォルニア大学（USC）で教鞭をとり、ジョージ・ルーカスに映像製作指導を行ったことも特筆すべき点だ。コンラッド・L・ホールと共に製作会社を設立し、コマーシャルやドキュメンタリーの制作・監督・撮影にも携わった。姪のダリル・ハンナが出演した『ブレードランナー』では、彼女を撮影した（クレジットなし）。息子のマーク・S・ウェクスラーは、父をテーマにしたドキュメンタリー『マイ・シネマトグラファー』を制作した。

影響力と評価

2003年、国際撮影監督協会(ICG)は、映画撮影史上最も影響を与えた人物の一人としてウェクスラーを選出した。その功績は、多くの賞や受賞歴、そして後進の育成、そして彼の制作した映画作品の数々に凝縮されている。93歳でその生涯を終えたが、彼の残した作品と思想は、これからも多くの映画人たちに影響を与え続けるであろう。

主な作品（抜粋）

撮影監督
アメリカ アメリカ (1963)
ヴァージニア・ウルフなんかこわくない (1966)
夜の大捜査線 (1967)
華麗なる賭け (1968)
カッコーの巣の上で (1975)
ウディ・ガスリー/わが心のふるさと (1976)

監督
アメリカを斬る (1969)
バス2 (1983)

ウェクスラーは、単なる撮影監督を超えた、真の映像作家であった。彼の革新的な映像表現、社会への鋭い視線、そして揺るぎない信念は、映画史に永遠に刻まれるだろう。

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