ハッピーボイス・キラー

概要

『ハッピーボイス・キラー』（原題：The Voices）は、2014年に製作されたアメリカ合衆国のホラーサスペンスコメディ映画です。

イラン出身でフランスを拠点に活動する漫画家であり、『チキンとプラム 〜あるバイオリン弾き、最後の夢〜』などで知られる女性監督マルジャン・サトラピが、全編英語作品として初めて手掛けた監督作となります。精神的な問題を抱え、自分だけに聞こえる「声」に導かれるかのように殺人を重ねてしまう孤独な青年の運命を、その陰惨な題材とは裏腹に、異様なほど明るくポップなトーンで描いているのが最大の特徴です。二匹のペットと暮らす主人公の青年を、『デッドプール』シリーズで知られるライアン・レイノルズが演じ、彼の狂気的な日常がユーモアを交えて描かれます。また、主人公の精神病による妄想世界はカラフルで凝ったセットワークで表現されており、その視覚的なスタイルも本作を異色たらしめています。舞台はアメリカと設定されていますが、撮影は全編ドイツで行われました。ライアン・レイノルズは主人公だけでなく、彼の幻聴として聞こえる様々な「声」も担当しており、その多才ぶりを発揮しています。

あらすじ

物語の舞台は、アメリカの片田舎にあるミルトンという町。主人公のジェリー（ライアン・レイノルズ）は、地元のバスタブ工場で働く孤独な青年です。一匹の犬ボスコと一匹の猫Mr.ウィスカーズと共に静かに暮らしていますが、彼には誰にも言えない秘密がありました。それは、他の誰にも聞こえない「声」が聞こえるというもの。これは精神的な病によるもので、彼は精神科医のウォーレン博士（ジャッキー・ウィーヴァー）から薬を処方されています。しかし、ジェリーは薬の服用を避け、代わりにペットたちと奇妙な会話を繰り広げる日々を送っていました。

そんなある日、工場で年に一度開催されるパーティーの企画を任されることになります。ジェリーは、密かに思いを寄せていた経理部のフィオナ（ジェマ・アータートン）も企画係になったことを知り、期待に胸を膨らませます。犬のボスコと猫のMr.ウィスカーズの声に焚きつけられ、ジェリーはフィオナに猛アタックを開始。ジェリーに好意を寄せるフィオナの同僚リサ（アナ・ケンドリック）の存在にも気づかず、フィオナを中華料理デートに誘いますが、デートの約束はあっさりと反故にされてしまいます。

落ち込むジェリーでしたが、偶然にもフィオナを自宅まで車で送ることになります。しかし、その道中、ちょっとした出来事をきっかけに、彼は誤ってフィオナを刺し殺してしまいます。パニックに陥ったジェリーは、事態を隠蔽しようとフィオナの遺体を自宅へ持ち帰り、損壊した上でその生首を冷蔵庫に隠すという異常な行動に出ます。ここからジェリーの狂気は加速。やがて、冷蔵庫のフィオナの生首までもがジェリーに語りかけ始め、彼はさらに深い狂気へと足を踏み入れていくのです。

キャスト・スタッフ

主要なキャストとしては、主人公ジェリー、そして彼の幻聴である犬のボスコや猫のMr.ウィスカーズなどの声を一人で演じ分けるライアン・レイノルズのほか、ジェリーが思いを寄せるフィオナ役をジェマ・アータートン、ジェリーに好意を寄せるリサ役をアナ・ケンドリック、ジェリーの精神科医ウォーレン博士役をジャッキー・ウィーヴァーが務めています。ジャッキー・ウィーヴァーはアカデミー助演女優賞ノミネート経験を持つ実力派です。

監督はマルジャン・サトラピ、脚本はマイケル・R・ペリーが手掛けました。製作はマシュー・ローズら複数名が担当。音楽はオリヴィエ・ベルネ、撮影はマキシム・アレクサンドル、編集はステファヌ・ローシュがそれぞれ担当し、本作の独特な世界観を構築しました。

精神疾患と殺人という重いテーマを扱いつつも、これをコミカルで視覚的に魅力的な手法で描いた本作は、観る者に強烈な印象を残す異色のコメディ作品として評価されています。狂気とユーモアのバランスが巧妙に取られており、ブラックユーモアに満ちた独特の味わいを持っています。

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