ハニヤス

ハニヤス：土と文化を司る神

ハニヤスは、日本神話に登場する神であり、『古事記』ではハニヤスビコ・ハニヤスヒメという男女一対の神として、『日本書紀』ではハニヤマヒメなどの名で記されています。土の神、土壌の神、農業神として広く信仰され、陶芸、鎮火、土木工事、造園工事、そして便所の神としても祀られる、多岐にわたる神格を持つ存在です。

神話における誕生

記紀神話において、ハニヤスはイザナミが火の神カグツチを生んだ際に負った火傷が原因で死にゆく間際に排泄した大便から生まれたとされています。この誕生譚は、鉱山の神カナヤマヒコや水の神ミヅハノメといった神々の誕生と連続しており、火の利用が人類にもたらした技術革新や文化の始まりを象徴していると考えられています。粘土を神格化したハニヤスは、土器や陶器の焼成技術と深く結びつき、陶芸の神としての側面を持ちます。

多様な神格

ハニヤスは、土壌一般の守護神として、農耕や開墾、田畑の守護神としても信仰されています。大便から生まれたという伝承から、農業に不可欠な肥料の神、さらには便所の神としても祀られることがあります。また、土に関わる土木業や造園業の守護神としての側面も持ち合わせています。

一方、『延喜式』に収録された祝詞では、ハニヤスは荒ぶる火の神の害から人々を守るためにイザナミが生み出した鎮火の神として描かれています。このため、ハニヤスは火除けの神としても信仰され、愛宕神社や秋葉神社などの火を鎮める神社で重要な祭神となっています。古代において火災の消火に土や泥が用いられたことが、ハニヤスが鎮火の神として祀られる理由の一つと考えられています。

さまざまな呼称と表記

ハニヤスは、文献によってさまざまな名前で呼ばれています。

ハニヤスヒメ、ハニヤスビメ、ハニヤスヒメノカミ、ハニヤスビメノカミ
ハニヤスビコ、ハニヤスヒコノカミ
ハニヤスノカミ
ハニヤマヒメ、ハニヤマビメ、ハニヤマヒメノカミ、ハニヤマヒミノカミ

これらの異名からも、ハニヤスが多様な側面を持つ神であることがわかります。

神名の由来

国学者本居宣長は、ハニヤスの神名について「義は埴黏（ハニネヤス）なり」と解釈しました。これは、粘土をこねて粘り気を出す様子を表していると考えられます。古語の「ハニ」は、黄色がかった粘土を指し、「黄土」や「埴」といった漢字が当てられてきました。この粘土は、瓦や土器・陶器の材料として、また黄色の染料としても用いられました。

信仰の広がり

ハニヤスは、土の神として、また農業神として、日本各地で信仰を集めています。特に福岡県にはハニヤスを祀る神社が多く、その他、群馬県や福島県にもハニヤスヒメを祀る神社が見られます。これらの神社では、五穀豊穣や家内安全、火災からの守護などが祈願されています。

まとめ

ハニヤスは、土という根源的な素材を神格化した存在であり、農業、陶芸、鎮火といった人々の生活に密接に関わる分野で信仰されてきました。その特異な誕生譚や多様な神格は、古代の人々の自然観や文化、技術に対する畏敬の念を表していると言えるでしょう。土と人との関わりを象徴する神として、ハニヤスは今もなお、私たちの生活に寄り添い、様々な恵みをもたらしてくれています。

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