ハプログループD1a1 (Y染色体)

ハプログループD-Z27276 (Y染色体)

「ハプログループD-Z27276 (Y染色体)」は、分子人類学の分野で人類の父系追跡に用いられるY染色体ハプログループの一つです。系統名称としては「ハプログループD1a1」とも呼ばれます。これは、より大きな分類であるハプログループD系統の子系統D1に属する細分岐（サブクレード）の一つであり、特にY染色体上の特定の遺伝子変異である「Z27276, Z27283, Z29263」といった変異を持つ男性の子孫が形成する系統を指します。これらの遺伝的標識は、特定の集団の歴史的な起源や拡散の過程を探る上で重要な手がかりとなります。

この系統は、地理的に特定の集団において高頻度で見られる特徴があります。特に、現在のチベットの人々において非常に高い割合で確認されており、その頻度は調査によって異なりますが、約58.6%という報告もあります。このことは、ハプログループD-Z27276がチベット集団の主要な父系系統の一つであることを示唆しています。一方で、日本列島の住民からも、その頻度は極めて低いものの、この系統に属する個体が確認されています。これは、古代における東アジアの人々の移動や交流の歴史を考える上で興味深い点です。

ハプログループD-Z27276を含むD1a1系統は、さらに上位の系統であるハプログループD1aから、同じくD1aの下位系統であるD1a2系統と共に、およそ5万年前に分岐したと考えられています。この年代は、現生人類がアフリカを出てユーラシア各地に拡散していった時期と重なるか、それ以降の初期の拡散に関わる可能性を示唆しています。

ISOGG (International Society of Genetic Genealogy) による2020年4月16日改訂の系統樹（ver.15.58）に基づくと、ハプログループD1a1系統は、その下にさらに細かく分岐した多くの下位系統（サブグループ）を持っています。主要な下位系統としては、以下のようなものが挙げられます。それぞれの系統は、さらに特定の遺伝子変異によって定義され、異なる地理的分布や時間的深さを持っています。

D1a1a (M15): 主にチベットなどで確認されている系統です。
D1a1a1 (F849): 最近共通祖先は約34,100年前に推定されています。
D1a1a1a (N1): 最近共通祖先は約16,900年前に分岐したとされます。
D1a1a1a1a1b2 (Y147589, BY134798): この系統は、日本で確認されている下位系統の一つで、最近共通祖先は約3,700年前と推定されています。日本におけるハプログループD1a1の希少な存在は、この系統に属する可能性があります。
* D1a1b (P99): 最近共通祖先は約10,900年前に遡るとされる系統です。チベットだけでなく、モンゴルや中央アジアなどの地域でも確認されています。

これらの下位系統の分岐年代や分布は、ハプログループD-Z27276を持つ集団が、過去の様々な時代にどのように拡散し、現在の地理的分布を形成していったのかを理解する上で重要な情報を提供します。特に、チベットにおける高頻度な分布と、それ以外の地域での見られ方の違いは、この系統が関わる集団の歴史的な孤立や移動のパターンを反映していると考えられます。Y染色体ハプログループの研究は、考古学や言語学といった他の学術分野と組み合わされることで、人類の複雑な歴史を多角的に解明する一助となっています。ハプログループD-Z27276の研究もまた、東アジアにおける人類集団の形成史や交流史に関する理解を深める上で重要な役割を担っています。

もう一度検索