Y染色体ハプログループ

Y染色体ハプログループ：人類の父系遺伝子系統を探る

Y染色体ハプログループとは、父系遺伝によって受け継がれるY染色体の遺伝的変異のパターンを分類したものです。すべての男性はY染色体を受け継ぎ、その変異パターンを辿ることで、人類の父系の歴史を紐解くことができます。Y染色体の最新共通祖先（Y-MRCA、通称Y染色体アダム）は約23万6千年前のアフリカに生息していたと推定され、現在生きているすべての人間の父系の祖先にあたります。

Y染色体アダムと人類の拡散

Y染色体アダム以降、人類はアフリカを出て世界各地へ拡散しました。その過程で、Y染色体には様々な変異が蓄積され、複数のハプログループが形成されました。主なハプログループとその分布、関連する民族や言語グループは次のとおりです。

アフリカ起源のハプログループ：
A、B、E系統はアフリカ起源であり、現在もアフリカ大陸に多く見られます。特にE1b1aはサハラ砂漠以南のアフリカ、E1b1bは北アフリカに多く、それぞれ異なる言語グループと関連付けられています。

出アフリカ後の拡散：
出アフリカ後のハプログループの拡散に関しては、複数の説があります。

三ルート拡散説： 崎谷満氏の説では、イラン付近を起点に南ルート、北ルート、西ルートの3ルートで拡散したとされています。南ルートは東南アジア、オセアニア方面へ、北ルートはシベリア、アメリカ大陸方面へ、西ルートはヨーロッパ、西アジア方面へと拡散したと推測されています。
東アジア起源拡散説： 2020年の研究では、7万～5万5千年前に出アフリカしたD、C、F系統が東アジア・東南アジアで多様化した後、約5万5千～5万年前から西へ拡散したとする説が提唱されています。この説では、ユーラシア各地の先住民のY染色体系統を置き換えていったとされています。

これらの説は必ずしも矛盾するものではなく、複数の拡散経路が複雑に絡み合って現在のハプログループ分布が形成されたと考えられます。

主要なハプログループと関連集団

以下に、主要なハプログループの分布と関連する集団、言語グループを簡単にまとめます。ただし、これはあくまで傾向であり、例外も存在します。また、Y染色体のハプログループは父系遺伝のみを反映するため、民族や人種といった表現型とは必ずしも一致しません。

C系統： 広くユーラシア大陸に分布。C1a1は日本、C1b2はオセアニア、C2は東アジア、中央アジアなどに多く見られます。
D系統： チベット、日本（アイヌ、沖縄）、ミクロネシアなどに分布。縄文人に由来すると推定されています。
E系統： アフリカ、中東に分布。E1b1bは北アフリカ、地中海沿岸に多く見られます。
F系統： 南アジアに多く分布。東南アジアにも見られます。
G系統： コーカサス地方に多く、ヨーロッパにも分布。
H系統： 南アジア、特にドラヴィダ系民族に多く見られます。
I系統： ヨーロッパに多く分布。I1は北欧、I2はバルカン半島に多く見られます。
J系統： 中東、地中海沿岸に多く分布。J1はアラビア半島、J2はアナトリア半島に多く見られます。
K系統： ニューギニア島、オーストラリア、東南アジアなどに分布。
N系統： 北ユーラシアに広く分布。ウラル語族と関連付けられています。
O系統： 東アジアに多く分布。O1aはオーストロネシア[[語族]]、O1bは日本、朝鮮半島、O2は中国、朝鮮半島などに多く見られます。
P系統： アメリカ大陸に多く分布。アメリカ先住民に多く見られます。
Q系統： アメリカ大陸に多く分布。アメリカ先住民に多く見られます。
R系統： ヨーロッパ、中央アジア、インドなどに広く分布。R1aは東ヨーロッパ、北インド、R1bは西ヨーロッパに多く見られます。

注意点

Y染色体ハプログループはあくまで父系遺伝の一側面を示すものであり、民族や人種を定義するものではありません。また、ハプログループの分布は、歴史的な人口移動や遺伝的浮動などの影響を受けて変動するため、必ずしも単純な関係とは言えません。これらの情報を解釈する際には、最新の研究成果を参照し、注意深く検討する必要があります。

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