ハプログループH (mtDNA)

ハプログループH (mtDNA) について

ハプログループHは、分子人類学においてミトコンドリアDNA（mtDNA）の系統を分類する上で重要なグループの一つです。このハプログループは、ハプログループHVの子系統として定義され、具体的には「G2706A, T7028C」という特定の遺伝子マーカーによって識別されます。ハプログループHは、約25,000年から20,000年前の西南アジアで誕生したと考えられており、人類の歴史における重要な出来事と深く関わっています。

ケンブリッジ参照配列との関連

ヒトミトコンドリアDNAの参照配列として広く用いられているケンブリッジ参照配列は、実はハプログループHに属しています。具体的には、この参照配列はH2a2a1という下位系統に分類されます。この事実は、ハプログループHが人類の遺伝子研究において中心的な役割を果たしていることを示しています。

分布

ハプログループHは、その誕生の地である西南アジアから東西へと拡散し、ユーラシア大陸の広範囲に分布しています。特にヨーロッパでは非常に高頻度に見られ、ヨーロッパ人の約41%がこのハプログループに属しています。また、下位系統であるH1は、北アフリカのベルベル人の間で高頻度に見られることが知られています。このように、ハプログループHの分布は、古代の人々の移動経路や遺伝的なつながりを理解する上で非常に重要な情報を提供してくれます。

主な下位系統

ハプログループHは、さらに詳細な下位系統に分類されます。以下に主なものをいくつか紹介します。

H1: ヨーロッパ全域に広く見られ、特にバスク人では最大27.8%という高い頻度で検出されます。北アフリカのベルベル人にも多く見られます。
H3: こちらもバスク人に多く、約13.9%の頻度で検出されます。
H5: 西アジアやコーカサス地方に多く見られます。
H53: さらに細かく分類され、H53*, H53a, H53a1, H53b, H53b1, H53c, H53dなどの下位系統が存在します。

古代DNAとの関連

ハプログループHは、古代の人骨からも検出されています。例えば、加徳島の獐項遺跡から出土した男性人骨「獐項8号人骨（Changhang 8）」のDNAを解析した結果、Y染色体はハプログループD1a2a1（D-116.1, CTS10441）であることが判明しました。さらに、この遺跡から出土した他の人骨の中には、ヨーロッパ系の母系とも共通するミトコンドリアDNAのハプログループHを持つ個体も発見されました。これらの事実は、古代の人々の移動や遺伝的なつながりを解明する上で、ハプログループHが重要な役割を果たすことを示しています。

獐項遺跡からは、日本産翡翠の装身具を含む48体もの人骨が出土し、そのうち17体について詳細な科学分析が行われました。この調査結果は、当時の人々の生活や交流の様子を伺い知る上で貴重な資料となっています。

このように、ハプログループHは、現代人の遺伝的特徴を理解するだけでなく、古代の人々の移動や遺伝的繋がりを解明するための重要な手がかりとなります。ハプログループHの研究は、人類の歴史をより深く理解するための鍵となるでしょう。

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