ハヤブサ (アルバム)

スピッツ『ハヤブサ』：ロックバンドとしての覚醒

2000年7月26日にリリースされたスピッツの9枚目のオリジナルアルバム『ハヤブサ』は、彼らがロックバンドとしての新たな境地を開いた作品として知られています。前作『フェイクファー』までのポップな路線から一転、ロックサウンドを前面に押し出し、バンドとしての力強さを追求しました。

制作背景と音楽性の変化

プロデューサーには、元Scudelia Electroのメンバーである石田小吉（現石田ショーキチ）を迎えました。エンジニアには同じくScudelia Electroの寺田康彦が担当し、サウンド面での大幅な変化をもたらしました。メンバーは、前作リリース後から感じていた世間からのイメージと、自分たちが目指すロックバンドとしての方向性とのギャップに悩み、解散や引退も考えるほどでした。そのため、『ハヤブサ』では、原点回帰とも言えるロックサウンドに重点を置いた制作が行われました。

草野マサムネは当時のインタビューで、「ベスト盤のリリースを機に、新しい方向へシフトチェンジしたかった」と語り、サウンド面でもバンド感を出すために試行錯誤を重ねたと述べています。レコーディングは日本で行われましたが、一部楽曲のミキシングとマスタリングはアメリカで実施。ミキシングエンジニアにはジム・スコット、マスタリングエンジニアにはスティーブン・マーカソンが起用され、海外の技術も積極的に取り入れられました。また、ジャケットデザインは木村豊が担当。草野はブラック・サバスのアルバム『パラノイド』のジャケットから影響を受けたと語っています。

各楽曲解説

アルバムには、多様な楽曲が収録されています。以下に主な楽曲について解説します。

今: 三輪テツヤと田村明浩、石田がバックコーラスを担当。間奏のギターソロは草野のデモテープからの流用です。草野は「今だけに生きてる、そんな僕の歌」と表現しています。
放浪カモメはどこまでも album mix: アルバムでは、ジム・スコットによるリミックスが施されたバージョンが収録されています。シングルリリース時とは異なるアレンジが楽しめます。
いろは: 打ち込みのビートが特徴的なロックナンバー。草野と石田が共同でプログラミングを担当。草野は歌詞に登場する「ポルトガル」について、地球平面説にちなんだものだと語っています。
さらばユニヴァース: アルバム終盤にレコーディングされた楽曲。ツアーパンフレットには、黒田硫黄による同名の漫画が掲載されています。
甘い手: 6分を超える大作。間奏部分には、ソビエト映画「誓いの休暇」の一部が使用されています。
HOLIDAY: メンバー曰く「ストーカーソング」。ボーカルテイクは、草野の花粉症がひどかったため沖縄でレコーディングされました。ライブでも人気のある楽曲です。
8823: タイトルチューンで、「ハヤブサ」と読みます。ポリスを意識した曲で、ライブでの定番曲となっています。タイトルは特撮ヒーロー番組が元ネタと指摘されましたが、草野は自身の好きな漫画のキャラクターから連想したと語っています。
宇宙虫: インストゥルメンタル曲。次曲へのイントロ的な役割も担っています。SCUDELIA ELECTROがプロデュース。
ハートが帰らない: 五島良子とのデュエット曲。草野と五島が共同でレコーディングしています。
ホタル: 先行シングル。アルバムの雰囲気を象徴する楽曲です。
メモリーズ・カスタム: シングル版に新たな展開を加え、リメイクされたバージョン。ライブでの盛り上がり曲として定番です。
俺の赤い星: 自虐的な歌詞が特徴。田村が作曲を担当し、草野が歌詞を付けています。アルバムに彩りを添えています。
ジュテーム?: アニメ『ハチミツとクローバー』挿入歌。草野の弾き語りと甘健民の二胡によるシンプルな曲。歌詞には遠藤賢司の「カレーライス」へのリスペクトが込められています。
アカネ: アルバムの1曲目候補だった曲。アメリカでのミックスはアナログ盤に収録。アルバムでは再ミックスされたバージョンが収録されています。

アナログ盤『8823』

同時発売されたアナログ盤は、タイトルが『8823』（はやぶさ）となり、CD版とは異なるマスタリングが施され、収録曲順も変更されています。また、「放浪カモメはどこまでも album mix」「ホタル」「メモリーズ・カスタム」の3曲が未収録となっています。本秀康によるオリジナルコミックも収録されています。

演奏メンバー

草野マサムネ：ボーカル、ギター、ハーモニカ、プログラミング
三輪テツヤ：ギター、プログラミング、バックボーカル
田村明浩：ベースギター、バックボーカル
﨑山龍男：ドラムス、タンバリン

ゲストミュージシャンとして、石田小吉、五島良子、甘健民、クジヒロコらが参加しています。

『ハヤブサ』は、スピッツがロックバンドとしての新たな可能性を追求した作品であり、その後の彼らの音楽活動に大きな影響を与えました。バンドの転換期を記録した重要なアルバムとして、現在も多くのファンに愛されています。

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