ハラッパー

ハラッパー：インダス文明の都市遺跡

ハラッパーは、パキスタン北東部パンジャブ地方に位置する、インダス文明を代表する都市遺跡です。ラーヴィー川沿いに広がるこの遺跡は、モヘンジョダロと並ぶ規模と重要性を持ち、インダス文明研究において極めて重要な役割を担っています。

発掘の歴史と調査

ハラッパー遺跡の存在が最初に確認されたのは1826年、チャールズ・マッソンによる発見でした。その後、1853年にはアレキサンダー・カニンガムによる発掘調査が行われ、特徴的な印章が出土したことが1875年に報告されています。しかし、当時はまだインダス文明の遺跡とは認識されていませんでした。

1921年、R.B.D.R.サハニによる発掘調査で、ハラッパーが未知の古代文明の都市遺跡であることが判明。この発見は、インダス文明の存在を世に知らしめる大きな一歩となりました。サハニの調査と、ほぼ同時期に行われたモヘンジョダロの発掘調査によって、インダス文明の範囲と特徴が明らかになり、「ハラッパー文化」という名称もこの遺跡に由来しています。

その後も、M.S.ヴァッツ（1926～1934年）、M.ウィーラー（1946～1947年）、そして1986年以降はアメリカ隊による組織的な発掘調査が続けられています。しかし、周辺住民による遺跡のレンガの利用や、東インド会社による鉄道敷設などにより、遺跡の保存状態は必ずしも良好ではありません。

複雑な都市構造と文化層

ハラッパー遺跡の居住期間は、紀元前3300年から紀元前1700年頃までと推定されています。発掘調査によって、ラーヴィー期、コト・ディジ期、インダス文明期、変移期、H墓地期の5つの文化層が確認されました。

ラーヴィー期には、遺跡の北側に手づくねの多彩文土器を伴う集落が形成され、紅玉髄や凍石製ビーズの生産も行われていました。この期の土器には、後のインダス文字の起源と考えられる刻印文字が見られます。コト・ディジ期になると、集落は南東部へと拡大し、周壁が築かれるようになりました。

インダス文明期には、明確な都市計画が見られます。「城塞」と呼ばれる区域と、城門によって隔てられた二つの「市街地」が区画され、城塞の北側には大型の「穀物倉」と推定された建物や、円形作業台（脱穀場とする説もある）が複数並んでいます。しかし、これらの建物が実際に穀物貯蔵に使われていたかは現在では疑問視されており、他の用途に使用されていた可能性が高いと考えられています。

「城塞」は南北約400m、東西約200mの平行四辺形で、焼成煉瓦と日干し煉瓦で築かれた厚さ12mの城壁、見張り台、城門を備えていました。城塞の南側にはR37墓地、北側にはH墓地があり、多数の埋葬遺構と、インダス式土器、印章、各種貴石製ビーズなどが発掘されています。H墓地は、後ハラッパー文化の代表的な遺跡としても知られています。

インダス文明研究への貢献

ハラッパー遺跡の発掘調査から得られた膨大な情報は、インダス文明の社会構造、経済活動、宗教観、技術水準などを理解する上で貴重な資料となっています。高度な都市計画、精巧な土器や印章、そして独自の文字体系などは、インダス文明が高度な文明社会であったことを示す証拠です。

ハラッパー遺跡は、インダス文明研究の中心的存在であり、今後の調査によって、さらに多くの謎が解き明かされることが期待されています。その発見は、古代南アジアの歴史と文化を理解する上で、これからも重要な役割を果たし続けるでしょう。

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