モヘンジョダロ

モエンジョダロ：インダス文明最大の都市遺跡

モエンジョダロは、パキスタン・シンド州にあるインダス文明最大の都市遺跡です。様々な表記（モヘンジョダロ、モエンジョダーロなど）がありますが、シンド語で「死の丘」を意味するこの地は、紀元前2500年から紀元前1800年にかけて繁栄し、最大で4万人もの人々が暮らしていたと推定されています。その後、比較的短期間で衰退したとされており、その原因については洪水説が有力視されています。

謎に包まれた都市名

現在の名称はシンド語で「死の丘」を意味するものの、インダス文字が解読されていないため、この都市が当時どのような名前で呼ばれていたのかは分かっていません。地元住民は古くからこの地を、古代の死者が眠る神聖で危険な場所だと考えており、近寄らないようにしていました。

整然とした都市計画と高度な技術

モエンジョダロ遺跡は東西2つの遺丘からなり、東側には市街地、西側には城塞が広がっています。遺跡全体はほぼ1.6キロ[[メートル]]四方と推定されていますが、今後の調査によってさらに広範囲に及ぶ可能性もあります。

注目すべきは、その整然とした都市計画です。碁盤の目状に道路が張り巡らされ、水道や排水システム、個人用の浴室、公衆浴場などが整備されていました。特に水利工学は高度に発達しており、季節的な水量の変動にも対応できる貯水池も存在していました。建築には一定サイズの煉瓦が用いられており、強力な中央集権体制と高度な社会構造が窺えます。

東丘の市街地：多様な建物と生活

市街地は東西2本、南北3本の幅10メートルの大路によって12区画に分けられていました。各区画はさらに小路で細分され、一般住宅、隊商宿、労働者用の小屋など、様々な建物が密集していました。住宅は中庭を中心とした構造が一般的で、出入口は小路に面していました。各戸には下水道が整備され、汚水は小路、大路へと流れる排水システムが構築されていました。市街地全体を囲むような市壁があったかどうかは、現在のところ分かっていません。

西丘の城塞：政治と宗教の中心地？

西丘には、ハラッパーと同様に堅固な城壁に囲まれた城塞があります。城塞内には、基壇の上に公共的な建造物が建ち並んでいました。「問学所」や会議場（列柱広間）と推測される建物は、政治の中心地としての機能を示唆しています。

城塞の中央には、瀝青で防水加工された大浴場があり、その隣には27基の穀物倉の基壇があります。当初は穀物倉と考えられていましたが、大浴場との近接性や、穀物らしい痕跡が見つからないことなどから、現在では別の用途に使われていた可能性が高まっています。大浴場と穀物倉の位置関係から、再生や増殖を象徴する宗教的な施設であったという説も提唱されています。つまり、城塞は政治だけでなく、宗教の中心地としての役割も果たしていたと考えられます。

発展した農業と交易

モエンジョダロの繁栄は農業に大きく依存していました。小麦の栽培や家畜の飼育が主要な産業であり、広大な道路や傾斜路は収穫物の輸送を容易にしていました。また、高度な食物保存技術も発達していたと考えられています。

貴重な遺物

発掘調査では、多数の遺物が発見されています。座像や立像、銅や石の道具、彫刻された印章、秤、金や碧玉の装飾品、子供のおもちゃなど、多様な遺物は当時の生活を鮮やかに伝えています。特に注目すべきは、ロストワックス鋳造法を用いた銅製品です。溶解炉なども発見されており、金属加工技術の高さがうかがえます。また、インダス文字が刻まれた銅板も見つかっており、解読が待たれています。陶器やテラコッタ製の土器からは、灰が残っているものが多く、遺骨の保管や暖房器具として使われていた可能性が指摘されています。

これらの遺物は、インドとパキスタンの国立博物館に収蔵されていますが、発掘当初はインド考古調査局によって大英博物館にも一部が移送されました。インドとパキスタンの独立後、遺物の分割を巡る交渉が行われ、現在では両国の博物館にほぼ均等に分けられています。

気候と遺跡の現状

モエンジョダロは砂漠気候で、非常に暑い夏と穏やかな冬が特徴です。近年は地下水位の上昇による塩害や、2022年のパキスタン洪水による被害も深刻な問題となっています。遺跡の保存に向けた取り組みが継続して行われています。

ユネスコ世界遺産

モエンジョダロは1980年にユネスコ世界遺産に登録されました。人類の価値の重要な交流を示すもの、そして、現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠として、高い評価を受けています。

まとめ

モエンジョダロ遺跡は、高度な都市計画と技術、そして謎に満ちた歴史を持つ、貴重な文化遺産です。今後の研究により、さらに多くのことが明らかになることが期待されます。

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