ハル・イン・チロル

ハル・イン・チロル（Hall in Tirol）

オーストリアのチロル州に位置するハル・イン・チロルは、歴史と文化が豊かな町です。その名はケルト語で「塩」を意味する「hal」に由来し、古くから製塩業が盛んであったことを示しています。中世には塩の交易で栄え、その面影は今も旧市街の美しい町並みに残されています。

名称の変遷

ハルの名称は、ケルト語の「塩」を意味する言葉に由来し、中高ドイツ語の「hal」がそのルーツです。1256年には「ハル」という名前が確認でき、1316年には「ハル・イン・インタール（Hall im Inntal）」として文書に登場します。19世紀からは現在の「ハル・イン・チロル（Hall in Tirol）」という名称が一般的になりました。1938年から1974年までの間は、保養所の設立に伴い「ソルバット・ハル（Solbad Hall）」という町名が用いられていました。

地理

ハル・イン・チロルは、インスブルックの東約10kmに位置し、海抜574mの場所にあります。

人口

2011年1月の時点での人口は約12,700人です。

歴史

ハルの歴史は1232年の文書に初めて言及され、1256年には岩塩生産についても記録されています。13世紀以来、ハル谷のアプサムでの岩塩採掘が地域の主要産業であり、採掘された岩塩は、10kmの木製パイプラインでイン川沿いの蒸発池に運ばれ、塩が製造されました。製造された塩は、チロルだけでなく、スイスやシュヴァルツヴァルト、ライン渓谷にも出荷されていました。

1303年、ケルンテン公兼チロル伯オットーによって、ハルはインスブルックと同等の権利を与えられ、塩の販売権を得ました。ハルの塩はイン川とドナウ川の水運を利用して、チロルの主要市場に出荷されました。

1447年に発生した火災で市街地は一時的に衰退しましたが、その後の復興と好景気により、数十年に及ぶ再建ブームが起こり、再建完了時には300軒以上の建物が建ち並びました。

1477年には、オーストリア大公ジギスムントによって造幣所がメラーンからハルに移されました。これは、近隣のシュヴァーツでの銀生産を見越したものでした。1486年には、高品質なターラー銀貨がハルのハーゼック城で製造され、16世紀には自動化されたコイニングマシンが導入されました。この機械のレプリカは、現在のハル貨幣博物館（旧ハーゼック城）に展示されています。

15世紀から16世紀にかけて、ハルはオーストリアで最も重要な町の一つとなり、この時期に多くの教会や修道院が建設されました。この結果、ハルの古い町並みはオーストリア西部で最大規模となっています。

1809年には造幣所の建物が解体され、造幣機能の一部がミュンヘンに移されました。1858年に鉄道が開通すると、イン川を使った水運は衰退しました。その後、ハルはオーストリア＝ハンガリー帝国軍の駐屯地となり、第二次世界大戦中に激しい爆撃を受けましたが、旧市街はほぼ無傷で残りました。1967年には、塩の採掘場が閉鎖されました。

1973年から旧市街の再活性化が始まり、その後数十年間で300軒以上の家屋が修復されました。1975年には造幣所が再開され、1976年の冬季五輪インスブルック大会を記念して100シリング硬貨を発行。オーストリアがユーロに移行する際には、1486年以来のグルディナー銀貨が記念硬貨として発行されました。

世界遺産暫定リストへの選出

2013年2月1日、ハル・イン・チロルは世界遺産の暫定リストに選出されました。初期の圧延による造幣の先駆者としての重要性から、登録基準(1)(2)(4)を満たす可能性があるとされました。しかし、諮問機関であるICOMOSの実地調査の結果、「不登録」と勧告されたため、オーストリア政府は2015年の第39回世界遺産委員会による審議前に推薦を撤回しました。

市章

ハル・イン・チロルの市章は、塩の樽を抱える2頭のライオンがデザインされています。

姉妹都市・友好都市

ハル・イン・チロルは、以下の都市と姉妹都市または友好都市提携を結んでいます。

姉妹都市：
ソンマカンパーニャ（イタリア）

友好都市：
イーザーローン（ドイツ）
ヴィンタートゥール（スイス）
アルコ（イタリア）
* ブリクセン/ブレッサノーネ（イタリア）

ハル・イン・チロルは、その歴史的な背景と美しい町並みが魅力的な町です。中世の面影を残す旧市街は、訪れる人々を魅了し、歴史と文化を感じさせる特別な場所です。

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