ハロルド・ヴァーマス

ハロルド・エリオット・ヴァーマス（Harold Elliot Varmus）は、1939年12月18日にニューヨーク州オーシャンサイドで生まれたアメリカ合衆国の著名な科学者であり、分子生物学、特にがん研究の分野で多大な貢献をした人物です。

彼の最も重要な業績は、1989年にJ・マイケル・ビショップ博士と共にノーベル生理学・医学賞を受賞した研究に関連しています。この研究で彼らは、レトロウイルスが引き起こすがんの原因となる遺伝子（ウイルス性オンコジーン）が、ウイルスそのものに由来するものではなく、感染した宿主の正常な細胞内に存在する遺伝子（細胞性オンコジーン）が変化したものであることを明らかにしました。この発見は、がんが細胞自身の遺伝子の異常によって引き起こされるという現在のがん研究の基礎となる考え方を確立する上で極めて重要であり、その後の診断や治療法の開発に貢献しました。

ヴァーマス博士は、研究者としてだけでなく、科学行政のリーダーとしても重要な役割を担ってきました。学歴としては、アマースト大学を卒業後、ハーバード大学大学院を経て、コロンビア大学医学部で医学教育を受け、医師免許および医学博士号を取得しています。

初期の研究キャリアでは、カリフォルニア大学サンフランシスコ校（UCSF）で長年にわたり教鞭を執り、自身の研究室を率いてノーベル賞受賞につながる研究を推進しました。UCSFでの成功の後、彼はアメリカ合衆国の科学行政の中枢へと活躍の場を移します。1993年から2000年までの期間、国立衛生研究所（NIH）の所長を務め、米国の医学研究政策や資金配分において中心的な役割を果たしました。NIH所長退任後もそのリーダーシップは続き、2000年1月から2010年6月にかけては、ニューヨークのメモリアル・スローン・ケタリング癌センターの所長としてがん研究の最前線を指揮しました。さらに、2010年7月からはアメリカ国立癌研究所（NCI）の所長に就任し、全米のがん対策と研究を推進する立場にあります。

これらの主要な役職に加えて、ヴァーマス博士は学術出版の世界にも影響を与えています。オープンアクセスジャーナルの普及を目指す非営利組織「Public Library of Science（PLoS）」の共同設立者であり、その議長も務めています。また、2002年から2005年にはコロンビア大学の理事会理事も務めるなど、多方面で科学と教育の振興に貢献しています。

ヴァーマス博士の功績は多くの権威ある賞によって称えられています。

1982年 - アルバート・ラスカー基礎医学研究賞
1983年 - パサノ賞
1984年 - ガードナー国際賞
1989年 - ノーベル生理学・医学賞
2001年 - アメリカ国家科学賞、ヴァネヴァー・ブッシュ賞
2012年 - グレン・T・シーボーグ・メダル

著書としては、ロバート・ワインバーグ博士との共著による『遺伝子とガン―発ガン機構と治療への道』があり、がん研究の基礎を理解する上で貴重な一冊となっています。

ハロルド・エリオット・ヴァーマス博士は、基礎研究における画期的な発見、主要な研究機関および科学行政におけるリーダーシップ、そして学術界への貢献を通じて、現代の医学、特にがん研究の発展に多大な影響を与えた人物です。

もう一度検索