J・マイケル・ビショップ

ジョン・マイケル・ビショップ（John Michael Bishop）は、1936年2月22日に生まれたアメリカ合衆国の医学者、研究者です。免疫学および微生物学の分野で顕著な功績を残し、特に癌研究において世界的に認められています。長年にわたりカリフォルニア大学サンフランシスコ校（UCSF）で教鞭を執り、後には学長も務めました。

経歴

ビショップ博士はペンシルベニア州に生を受け、ゲティスバーグ大学で学部教育を修了しました。その後、医学を志し、1962年にハーバード大学医学部よりM.D.（医学博士）の学位を取得しました。初期のキャリアでは、メリーランド州ベセスダにあるアメリカ国立衛生研究所（NIH）内のアメリカ国立アレルギー・感染症研究所（NIAID）で研究に従事しました。続いて、ドイツのハンブルクにあるハインリッヒ・ペッテ研究所で1年間の研究経験を積みました。1968年、カリフォルニア大学サンフランシスコ校（UCSF）の教員陣に加わり、以降、同校を研究活動の拠点とします。UCSFでは、基礎研究部門での活動を経て、1998年から2009年まで学長という要職を務め、大学の研究・教育活動の発展に貢献しました。

主な研究業績

ビショップ博士の最も重要な業績は、レトロウイルス研究を通じて細胞の増殖制御に関わる遺伝子、特に癌遺伝子の発見とその機能解明にあります。1980年代初頭、共同研究者であるハロルド・ヴァーマス博士と共に、鳥類に腫瘍を引き起こすラウス肉腫ウイルス（RSV）の研究から得られた知見を、ヒトの細胞に適用しました。彼らは、RSVが持つ癌遺伝子v-Srcが、実は正常なヒトの細胞にも存在する類似の遺伝子、すなわち癌原遺伝子（プロトオンコジーン）であるc-Srcに由来することを明らかにしました。

このc-Src遺伝子の発見は、細胞が正常な状態から癌へと変化していくメカニズムに関する理解を根本から変える画期的な成果でした。それまで、癌は外部からの特定の要因（例えばウイルス）によって細胞の遺伝情報が異常に変えられることで生じると考えられていましたが、ビショップ博士とヴァーマス博士の研究は、細胞自身が元々持っている正常な遺伝子が、特定の条件下で異常に活性化したり変異したりすることによって癌化が引き起こされうることを初めて実証したのです。この発見は、ウイルス感染だけでなく、放射線や化学物質への曝露など、様々な外的要因がどのように細胞内の正常遺伝子を変化させ、癌の発生につながるのかを理解するための基礎となりました。彼らの研究は、その後の分子生物学的な癌研究、特に癌遺伝子や癌抑制遺伝子の分野における爆発的な進歩の端緒を開いたと言えます。

受賞歴

ビショップ博士の研究に対する貢献は高く評価され、数々の権威ある賞を受賞しています。主な受賞歴は以下の通りです。

1982年：アルバート・ラスカー基礎医学研究賞
1983年：パサノ賞
1984年：ガードナー国際賞
1986年：ディクソン賞
1989年：ノーベル生理学・医学賞（ハロルド・ヴァーマスと共同受賞）
2003年：アメリカ国家科学賞

特に、ハロルド・ヴァーマス博士と共に受賞した1989年のノーベル生理学・医学賞は、癌遺伝子の発見という彼らの研究の歴史的な重要性を示すものです。ジョン・マイケル・ビショップ博士の生涯にわたる研究は、癌という難病のメカニズム解明と、それを標的とする新たな治療法開発の礎石を築きました。

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