ハングリー・ハート

ハングリー・ハート (Hungry Heart)

「ハングリー・ハート」は、アメリカのシンガーソングライター、ブルース・スプリングスティーンによって作詞・作曲され、1980年に発表された楽曲です。彼にとって初期の大きな商業的成功をもたらした代表曲の一つとして知られています。

制作背景

この楽曲が生まれた背景には、意外なエピソードがあります。1979年頃、ニュージャージー州アズベリー・パークにて、スプリングスティーンはパンクバンド、ラモーンズのボーカリストであるジョーイ・ラモーンと偶然会いました。その際、ラモーンから彼のバンドのために曲を書いてもらえないかと依頼されたことが、「ハングリー・ハート」誕生の直接的なきっかけとなったのです。

スプリングスティーンはその日の夜のうちにこの曲を書き上げたとされています。しかし、プロデューサーでありマネージャーでもあったジョン・ランドーは、この楽曲が持つポップな魅力に気づき、他アーティストへの提供ではなく、スプリングスティーン自身の作品として発表することを強く勧めました。この助言を受け入れ、結果的にこの曲は彼のキャリアにおける重要な楽曲の一つとなりました。

タイトルの由来

楽曲の印象的なタイトル「ハングリー・ハート」は、19世紀のイギリスの詩人、アルフレッド・テニスンによる有名な詩「ユリシーズ」から引用されています。特に、詩の一節「For always roaming with a hungry heart」（常に満たされない心とともにさまよう）というフレーズにインスピレーションを得て名付けられました。これは、探求心や渇望、あるいは満たされない思いといったテーマを内包していると考えられます。

レコーディング

「ハングリー・ハート」のレコーディングは、1979年6月23日にニューヨーク市にあるザ・パワー・ステーション・スタジオで行われました。このレコーディングには、元タートルズのメンバーであるハワード・カイランとマーク・ヴォルマンがバッキング・ボーカルとして参加しており、楽曲に特徴的なハーモニーを加えています。

リリースと商業的成功

本楽曲は、1980年10月17日に発売されたブルース・スプリングスティーンの5作目となるスタジオアルバム『ザ・リバー』に収録されました。このアルバムは、彼のキャリアで初めて全米アルバムチャートで1位を獲得する大作でした。アルバムリリースから間もない10月21日には、満を持してシングルカットされました。

シングルのB面には、アルバム『ザ・リバー』には未収録だった楽曲「ヘルド・アップ・ウィズアウト・ア・ガン（Held Up Without a Gun）」が収められました。また、シングルのジャケット写真に写っている建物は、制作のきっかけとなったアズベリー・パークに実在するエンプレス・ホテルです。

シングルとしてリリースされた「ハングリー・ハート」は、アメリカの音楽チャートであるビルボード・Hot 100において、商業的に大きな成功を収めました。1980年12月27日から翌1981年1月24日にかけて、5週連続で最高位である5位を記録し、スプリングスティーンにとって初の全米トップ10シングルとなりました。

その後の展開

「ハングリー・ハート」が収録されたアルバム『ザ・リバー』は、長年にわたり愛され続け、2015年には発売35周年を記念したボックスセットがリリースされました。この記念ボックスセットには、シングルのB面としてのみ発表されていた「ヘルド・アップ・ウィズアウト・ア・ガン」も初めて収録されることとなり、ファンにとって貴重な音源が含まれることになりました。

「ハングリー・ハート」は、そのキャッチーなメロディと普遍的なテーマ、そして制作を巡る興味深いエピソードから、ブルース・スプリングスティーンのキャリアの中でも特に広く親しまれている楽曲の一つです。

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