ハンス・コンツェルマン

ハンス・コンツェルマン (1915-1989) は、20世紀におけるドイツのプロテスタント神学を代表する聖書学者の一人です。1960年から1978年までゲッティンゲン大学で教鞭をとり、後進の育成にも尽力しました。

コンツェルマンの学問的功績は多岐に渡りますが、特に注目すべきは、新約聖書研究における方法論の革新です。ルドルフ・ブルトマンらによって始められた様式史研究をさらに発展させ、独自の編集史研究を確立した先駆者として知られています。ブルトマンらの研究を土台としながらも、コンツェルマンは既存の解釈にとらわれず、独自の視点から聖書テキストを読み解きました。

彼の代表作である『時の中心-ルカ神学の研究』(Die Mitte Der Zeit) は、英語圏では副題に「聖ルカの神学」を冠して紹介されることが多い重要な著作です。この本では、ルカによる福音書記述におけるイエスの働きを、「時の中心点」として位置づけています。これは、旧約聖書の律法と預言者たちの時代という「古い秩序」と、キリストの再臨によって終焉を迎える教会時代という「新しい秩序」の間に位置するイエスの存在を明確に示しています。コンツェルマンは、イエスが「古い秩序」の終焉であり、同時に「新しい秩序」の始まりであると論じています。

この著作において、コンツェルマンは演繹的批評学の方法を用いてルカ神学にアプローチしました。これは、聖書テキストの背後にある作者の意図や神学体系を、テキストの内部構造や文脈から分析的に解き明かしていく方法です。彼の研究は、ブルトマン神学の後継者と見なされる「ポスト・ブルトマン神学」の重要な一環をなしています。しかし、コンツェルマンは単にブルトマンの理論を踏襲したわけではありません。むしろ、ブルトマンが重視した黙示文学的な解釈に偏ることなく、イエスのメッセージの中核にある「神の国」の実現に焦点を当て、より歴史的・現実的な視点を取り入れました。

コンツェルマンの研究は、現代の新約聖書研究に多大な影響を与え、多くの学者に刺激を与え続けています。彼の緻密な聖書解釈と、既存の枠にとらわれない独創的な研究姿勢は、後世の研究者たちの模範となっています。彼の著作は、今日でも新約聖書研究の重要な参考文献として広く活用されており、その学問的遺産は不朽のものと言えるでしょう。

参考文献として、ローマン・ハイリゲンタール著『イエスの実像を求めて-現代のイエス探求』、エヴェレット・F・ハリソン著『新約聖書緒論』、ヘンリー・シーセン著『新約聖書緒論』、C・F・ヴィスロフ著『現代神学小史』などが挙げられます。これらの著作は、コンツェルマンの研究を理解する上で、重要な手がかりを提供してくれるでしょう。

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