様式史研究

様式史研究：聖書の本文を解き明かす方法

様式史研究（Formgeschichte）は、聖書本文の理解を深めるための重要な聖書批評学の方法です。この手法は、聖書本文を構成する個々の物語や記述（ペルコペ）を、その文学的様式に基づいて分類・分析することで、その起源や伝承過程を明らかにしようとするものです。単に本文の表面的な意味だけでなく、その背後にある歴史的・文化的背景、そして伝承の過程でどのように変化してきたのかを解き明かすことを目指しています。

様式史研究の端緒を開いたのは、マルティン・ディベリウス（Martin Dibelius）です。彼の代表作である『福音書の様式史研究』(Formgeschichte des Evangeliums)は、この研究分野の礎を築きました。ディベリウスは、福音書本文を様々な様式（例えば、語り、たとえ話、奇跡物語など）に分類し、それぞれの様式の起源や機能を分析しました。

ディベリウスの研究を引き継ぎ、発展させた重要な人物として、カール・L・シュミット（Karl Ludwig Schmidt）が挙げられます。彼の『史的イエスの枠組み』(Der Rahmen der Geschichte Jesu)では、マルコの福音書における歴史的枠組みを自由主義的な視点から解釈し、様式史研究に新たな視点を提供しました。

さらに、ルドルフ・ブルトマン（Rudolf Bultmann）は、1921年に発表した『共観福音書の伝承史の研究』(Die Geschichte der synoptischen Tradition)において、ディベリウスらの研究をさらに発展させました。ブルトマンは、様式史研究を基盤として、口伝伝承の過程における変化や編集、そしてそれらが福音書本文に及ぼした影響を詳細に分析しました。

様式史研究の核心は、聖書本文が単一の作者によって書かれたのではなく、口伝の過程を経て形成されたという前提にあります。それぞれの物語や記述は、特定の状況や目的のもとで口承され、伝承される過程で様式的な特徴を獲得し、変化を遂げていったとされます。様式史研究は、これらの様式的な特徴を分析することで、口伝伝承の過程をたどり、本文の形成過程を明らかにしようとするのです。

例えば、ある物語が同じ様な様式で複数回繰り返されている場合、それはその物語が読者の記憶に定着するために、意図的に同じ様式で伝えられた可能性を示唆します。また、初期の様式と後期の様式を比較することで、伝承の過程でどのような要素が付加されたのか、あるいは逆に失われたのかを推測することも可能です。

しかし、様式史研究は万能ではありません。様式に基づく分類には主観的な要素が含まれる可能性があり、解釈には常に限界があります。また、口伝伝承の過程を完全に復元することは不可能であり、仮説の域を出ない部分も存在します。

にもかかわらず、様式史研究は聖書本文の理解に多大な貢献を果たしました。この手法によって、聖書本文の多層的な構造や、その形成過程における複雑な歴史的・文化的背景が明らかになりつつあります。現代の聖書研究においても、様式史研究は重要な方法論の一つとして位置付けられ、他の研究手法と組み合わせて用いられています。

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