ハーシェル式望遠鏡

ハーシェル式望遠鏡：副鏡なき反射望遠鏡

ハーシェル式望遠鏡は、18世紀の天文学者ウィリアム・ハーシェルによって考案された、特異な反射望遠鏡です。その最大の特徴は、現代の反射望遠鏡に見られる副鏡を一切使用しない点にあります。代わりに、主鏡自体をわずかに傾けることで、反射された光を望遠鏡の筒の外に導き、観測者が直接光を捉える仕組みとなっています。

ハーシェルが自ら製作し、天王星の発見にも用いた「40ft大望遠鏡」がその代表例です。この望遠鏡は、長さ約12.2メートル、口径122センチメートルという、当時としては巨大なものでした。しかし、当時の反射鏡は金属製で反射率が低かったため、副鏡を使うと光の損失が大きくなってしまい、暗い像しか得られませんでした。そこで、ハーシェルは副鏡を使用せず、主鏡の角度を調整することで光量を確保しようとしたのです。

この手法は、大口径望遠鏡においては有効でしたが、いくつかの欠点も持ち合わせていました。まず、光軸がずれているため、像の歪みや鮮明度が低下する可能性があります。これは、光が主鏡で正確に一点に集光されないため、発生する現象です。また、中小口径の望遠鏡では、観測者の頭が光路を遮ってしまうため、実際には観測が困難になります。そのため、ハーシェル式望遠鏡は、ハーシェルの40ft大望遠鏡のような大口径望遠鏡でなければ、実用的な観測を行うのが難しいと言えます。

ハーシェル自身も、多数のニュートン式反射望遠鏡を使用していました。ニュートン式望遠鏡は、主鏡と副鏡を用いることで光軸を望遠鏡筒の側面に導く、一般的な反射望遠鏡です。ハーシェルがニュートン式望遠鏡も使用していた事実は、ハーシェル式望遠鏡が必ずしも万能ではなく、観測対象や状況に応じて使い分けられていたことを示唆しています。例えば、口径15.8cmのニュートン式望遠鏡は、天王星の発見にも用いられたとされています。これは、ハーシェル式望遠鏡が必ずしもすべての観測に適していたわけではないことを示しています。

このように、ハーシェル式望遠鏡は、当時の技術的な制約の中で生まれた、創意工夫に富んだ望遠鏡でした。副鏡を用いないことで光量を確保するという革新的なアイディアは、後の望遠鏡開発にも影響を与えたと言えるでしょう。しかし、その欠点も考慮すると、現在では、より性能の良い反射望遠鏡が数多く存在するため、ハーシェル式望遠鏡は、歴史的な観点から興味深い存在と言えるでしょう。

参考文献

吉田正太郎『天文アマチュアのための望遠鏡光学・反射編』誠文堂新光社 ISBN 4-416-28813-1
天文と気象別冊『天体望遠鏡のすべて'75年版』地人書館

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