ハーバート・バターフィールド

ハーバート・バターフィールド：近代科学の誕生とウィッグ史観批判

ハーバート・バターフィールド（1900年-1979年）は、20世紀を代表するイギリスの歴史家です。ケンブリッジ大学で教鞭をとり、歴史学研究に多大な貢献をしました。彼の業績は大きく分けて二つの柱から成り立っています。一つは17世紀の「科学革命」に関する研究、もう一つは歴史解釈における「ウィッグ史観」への批判です。

科学革命：近代世界観の転換点

バターフィールドの代表作である『近代科学の誕生』(1949年)において、彼は近代世界を規定する転換点として「科学革命」を位置づけました。従来、ルネサンスや宗教改革が近代の始まりとされていましたが、バターフィールドは、17世紀における科学的発見の連鎖こそが、世界観を一変させた真の革命であると主張しました。

この「科学革命」の中心には、コペルニクス、ケプラー、ガリレオ、ニュートンといった科学者たちがいます。コペルニクスの地動説は、宇宙の中心は地球ではなく太陽であるという、それまでの天動説を覆す画期的な発見でした。ケプラーは精密な観測に基づき惑星の楕円軌道モデルを提唱し、ガリレオは天体観測と力学実験を通じて、アリストテレス的な自然観に異議を唱えました。そしてニュートンは万有引力の法則を発見し、地上の世界と天上の世界を統一する力学体系を確立しました。

バターフィールドはこれらの発見が、単なる科学的進歩にとどまらず、近代科学の成立、ひいては近代世界の精神構造そのものを形作ったと論じています。実験と検証を重視する科学的方法の確立、目的論的自然観からの脱却、そして「地上のもの」と「天上のもの」の統合―これらの変化が、産業革命を含む後の歴史に大きな影響を与えました。

『近代科学の誕生』は、科学史の専門家だけでなく、一般読者にも分かりやすく書かれた優れた概説書としても高く評価されています。科学革命という概念は、今日でも科学史研究において重要な枠組みとして用いられています。

ウィッグ史観批判：歴史解釈への警鐘

もう一つの大きな業績として、バターフィールドは『ウィッグ史観批判』(1931年)において、歴史解釈における「ウィッグ史観」を批判しました。「ウィッグ史観」とは、過去の出来事を現代の視点から一方的に評価し、歴史の進歩を必然的なものとして捉える歴史解釈の傾向のことです。バターフィールドは、このような後知恵的な歴史解釈は、過去の複雑な状況を単純化し、歪めてしまう危険性があると指摘しました。彼は、歴史家は過去の出来事を当時の状況に即して理解し、客観的な視点を持つ必要があると主張しました。

結論

ハーバート・バターフィールドは、科学革命に関する研究とウィッグ史観批判を通して、歴史学に大きな貢献を残しました。「科学革命」の概念は近代史理解の基礎となり、ウィッグ史観批判は歴史家の客観性と責任を問う重要な示唆を与えました。彼の著作は、今日でも歴史研究に多大な影響を与え続けています。彼の業績は、歴史研究における科学的アプローチと客観性の重要性を再認識させるものであり、現代の私たちにとっても重要な示唆を与えてくれます。

著作リスト

バターフィールドは数多くの著作を著しました。主なものとしては、上記の『近代科学の誕生』と『ウィッグ史観批判』のほか、『マキャベリの政治術』、『歴史小説論』などがあります。これらの著作は、現代においても歴史学、科学史、思想史の分野で重要な参考文献となっています。

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