ハーバード大学出版局

ハーバード大学出版局

ハーバード大学出版局（Harvard University Press, 略称HUP）は、アメリカ合衆国を代表する世界的な高等教育機関であるハーバード大学の出版部門です。学術的な出版活動を専門とし、知識の普及と研究の発展に貢献することを使命としています。

設立と歴史

公式な組織としてのハーバード大学出版局は、1913年1月13日に設立されました。しかし、ハーバード大学自体における出版の歴史はより古く、1643年には北米で初めて印刷機を設置しており、学術的な印刷物や出版物の刊行はそれ以前から行われていました。HUPは、この300年以上にわたるハーバード大学の知的な蓄積と出版の伝統を受け継ぎ、現代の学術出版の中核を担っています。

所在地と組織

主な拠点は、ハーバード大学のキャンパスがあるマサチューセッツ州ケンブリッジのハーバード・スクエア近辺に置かれています。また、国際的な活動拠点として、イギリスのロンドンにもオフィスを構えています。アメリカの主要な大学出版局の一つとして、アメリカ大学出版局協会（Association of American University Presses）にも加盟しています。

出版活動

HUPが手がける出版物の中心は、人文科学、社会科学、自然科学といった幅広い分野の学術書です。世界中の第一線の研究者による最先端の研究成果や、学問的に重要な古典籍の校訂版・翻訳版などを刊行しています。その質の高さと影響力は国際的に認められており、学術界において重要な役割を果たしています。

特定の分野における重要な文献を体系的に刊行する「叢書」も多数擁しています。中でも著名なものとしては、古代ギリシャ・ラテン語の古典文献を原文と英訳で並記した「ローブ・クラシカルライブラリー（Loeb Classical Library）」があります。その他にも、ルネサンス期イタリア研究に特化した「The I Tatti Renaissance Library」、中世研究のための「Dumbarton Oaks Medieval Library」、そしてインド古典文献を扱う「Murty Classical Library of India」など、専門性の高い叢書を通じて、貴重な文献へのアクセスを提供しています。

また、主要なインプリント（特定の出版ライン）として「Belknap Press」があり、そこからはアメリカ史や文化に関する重要な文献を集めた「John Harvard Library」シリーズなどが刊行されています。

HUPは、ハーバード大学の機関ではありますが、名称の類似する他の組織、例えばビジネス関連書籍を扱う「ハーバード・ビジネス・スクール・パブリッシング（Harvard Business Publishing）」や、料理・園芸関連書籍を主に出版する「Harvard Common Press」とは別の独立した組織です。

国際的な影響

HUPから刊行された書籍は、その学術的な重要性から世界中で翻訳され、広く読まれています。日本においても、多くの重要な著作が翻訳・紹介されており、日本の学術界や社会にも大きな影響を与えてきました。例えば、現代哲学の古典となったソール・クリプキの『名指しと必然性』、日本の高度経済成長期を分析したエズラ・ヴォーゲル著『ジャパン・アズ・ナンバーワン』、現代思想に大きな影響を与えたアントニオ・ネグリとマイケル・ハートの共著『帝国』、そして世界的な経済学のベストセラーとなったトマ・ピケティの『21世紀の資本』（原著はHUPから刊行）などがあります。これらの書籍は、それぞれの分野でその後の議論や研究の基盤となるものです。

情報発信

HUPは、伝統的な書籍出版に加え、公式ウェブサイトやブログなどを通じて、新刊情報や著者インタビュー、関連分野の議論など、多角的な情報発信も積極的に行っています。これにより、研究者や読者とのつながりを深め、学術的なコンテンツへの関心を高めています。

ハーバード大学出版局は、設立以来100年以上にわたり、学術出版の最前線で活動を続け、人類の知識遺産の形成と継承に不可欠な貢献を果たしています。その刊行する書籍は、世界中の大学図書館や研究機関に収蔵され、多くの研究活動の基礎となっています。

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