ハ2 (エンジン)

九三式七〇〇馬力発動機について

九三式七〇〇馬力発動機、通称ハ2は、1930年代に三菱航空機によって開発された航空機用の水冷エンジンです。日本陸軍での正式な呼称は九三式七〇〇馬力発動機、製造社内ではB1という呼称が用いられていました。このエンジンは海軍には採用されていません。

設計と特徴

このエンジンは、三菱が以前に製造したイスパノ650馬力発動機を基盤としており、同社がユンカースなどのエンジンの製造経験を踏まえて改良されています。機械式過給器を装備しており、気筒の直径やサイズはイスパノエンジンを踏襲しつつ、弁装置はユンカースのL88に似たDOHC・4弁式を採用しています。また、過給器のインペラの直径は260mmとなっており、クランク軸の7倍の速度で回転します。このプロペラ軸はファルマン式の減速装置を介して減速され、その比率は0.621です。

燃料には、航空三号揮発油に0.08%の四エチル鉛を添加した高オクタンガソリンが使用され、正規の馬力での燃料消費率は225g/PS・hとなっています。潤滑油にはカストル油が用いられ、通常の潤滑油圧力は3.5kg/cm²で、消費率は8g/PS・hです。

改良型と性能

改良型のIII型では、過給器のインペラ径が5mm大きくなり、増速比も変更されています。また、剛性の向上や給排気弁の材質変更、さらには排気弁の冷却能力の強化などが図られています。プロペラ軸の減速比는0.625に調整され、燃料も航空八七揮発油に変更されました。潤滑油圧力は3.6kg/cm²に引き上げられ、燃料と潤滑油の消費率は250g/PS・hおよび10g/PS・hに改良されています。

IV型では減速装置が平歯車式に改良され、プロペラシャフトの位置も上方に変更されました。これらの変更は、九三式重爆撃機の改良に伴うものです。しかし、残念ながらこの発動機はイスパノ650馬力エンジンと同様の問題を抱えており、故障や不具合の解消は最後まで行われませんでした。結果的に、三菱はこの発動機の生産を終えるとともに、航空用液冷エンジンの開発からも撤退し、その後の発展はなくなってしまいました。

生産実績と搭載機

九三式七〇〇馬力発動機は、1932年から1937年にかけて、各型合計で365基が製造されました。主に陸軍の三菱キ1九三式重爆撃機に搭載されました。

主要諸元

• - 形式: 水冷V形12気筒
• - 気筒径×行程: 150mm×170mm
• - 排気量: 36.0L
• - 圧縮比: 6.2
• - 全長: 2,208mm
• - 全高: 1,163mm
• - 全幅: 752mm
• - 重量: 660kg
• - 離昇出力: 940HP / 2,300RPM
• - 公称出力: 700HP / 2,000RPM

このように、九三式七〇〇馬力発動機は当時の航空技術の中で重要な役割を果たしたエンジンであり、三菱航空機の歴史においても特筆すべき存在となっています。

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