バイアス (電子工学)

電子工学におけるバイアス

電子工学において、バイアスとは、ダイオード、トランジスタ、真空管などの電子部品を適切な条件で動作させるために、それらの端子に一定の直流（DC）電圧または電流を印加することを指します。これらの電子素子は、交流（AC）信号を処理する際に、正しい動作のために一定のDCバイアスを必要とします。入力信号は、このDCバイアスにAC信号が重畳されたものとなります。

例えば、トランジスタを用いた増幅回路では、トランジスタを相互コンダクタンス曲線の特定の領域で動作させるためにバイアス電圧が加えられます。同様に、真空管では、グリッド電極にグリッドバイアスが印加されることが一般的です。

さらに、磁気テープへの録音音質を向上させる目的で、記録ヘッドに印加されるオーディオ信号に高周波信号を重畳させることも、バイアスの一種として知られています。この方法は特に交流バイアス法と呼ばれます。

線形回路におけるバイアスの重要性

トランジスタを含む線形回路が正しく動作するためには、適切なDC電圧と電流が不可欠です。このために、バイアス回路が用いられます。トランジスタ増幅器は、綿密なバイアスが必要となる代表的な例です。理想的な線形増幅器では、入力信号と出力信号が正確に比例します。しかし、トランジスタの入出力特性は完全に線形ではないため、増幅器は近似的にしか線形動作を行いません。歪みを抑制するためには、バイアスを調整し、信号の振幅が最大になってもトランジスタの動作点が線形領域を超えないようにする必要があります。バイポーラトランジスタ増幅器では、トランジスタを活性領域で動作させ、遮断領域や飽和領域に入らないようにします。MOSFET増幅器でも同様の要件があり、飽和領域で動作させる必要があります。

バイポーラトランジスタのバイアス

バイポーラトランジスタでは、トランジスタが活性領域で動作するように動作点が設定され、様々な回路技術を用いて電圧と電流が作られます。入力信号はこのバイアスに重畳されます。最大の信号振幅を得るために、バイアス点は直流負荷線の中央付近に設定されることが一般的です。これは、トランジスタが飽和領域や遮断領域に入ってクリッピング歪みが発生するのを防ぐためです。この動作点を定めるプロセスが、バイアスと呼ばれます。

真空管のバイアス

真空管では、ゼロ入力信号（定常状態）での動作条件を設定するために、カソードを基準としたコントロールグリッドに供給されるDC電圧がグリッドバイアスと呼ばれます。

一般的なA級電圧アンプや、オーディオパワーアンプのA級およびAB1級の電力増幅段では、カソードに対して負のDCバイアス電圧がグリッドに与えられます。この際、瞬間的なグリッド電圧は、グリッド電流が流れ始める値や、カットオフが起こる値には達しないように調整されます。B級アンプでは、グリッド電圧はプレート電流のカットオフが起こると予想される値に設定され、負バイアスが用いられます。B級動作用に設計された真空管では、バイアスはほぼゼロにすることができます。C級アンプでは、プレート電流のカットオフが始まる点をはるかに超えた負バイアスが与えられます。バイアス電圧源は、グリッド電流を供給するために低い抵抗である必要があります。

真空管のバイアス方法

真空管にグリッドバイアスを与える方法はいくつかあり、複数の方法を同時に使用することもあります。

固定バイアス: 適切なインピーダンスを介して電圧源に接続し、グリッド電位を定める方法。
カソードバイアス（自己バイアス）: カソードとグラウンドの間に抵抗を接続し、その電圧降下を利用する方式。
グリッドリークバイアス: 入力サイクルの一部でグリッドが正に駆動されると、グリッドに電子が飛び込む現象を利用したバイアス。
ブリーダバイアス: プレート電圧を供給するDC電源に接続した抵抗の中間点からグリッド電圧を取り出す方法。
初速度バイアス（接触バイアス）: カソードから放出された電子がグリッドに流れ込む現象を利用したバイアス。

マイクロフォンのバイアス

コンデンサマイクは、動作のために48Vのファンタム電源を必要とすることがあり、これは「DCバイアス型」と呼ばれることがあります。エレクトレット型コンデンサマイクは、自発的な電気分極を持つ材料を使用しており、バイアス電圧を必要としません。ただし、これらのマイクにはインピーダンス変換器としてJFETが搭載されており、その動作電流がバイアスと呼ばれることもあります。

関連項目

アイドリング電流
* 小信号モデル

もう一度検索