バグダッド電池

バグダッド電池：古代の謎めいた土器

イラクのバグダッド近郊で発見された、高さ約10cm、直径約3cmの素焼きの土器が、世界中の考古学者や科学者の興味を引きつけています。それが「バグダッド電池」です。1930年代の発掘以来、その用途をめぐって様々な議論が交わされ、いまだに謎に包まれている古代の遺物です。

構造と発見

この土器は、粘土を焼いて作られた壺の中に、アスファルトで固定された銅の筒が入れられています。その銅筒の中には、さらにアスファルトで塞がれたシリンダー状の空間があり、その中に鉄製の棒が差し込まれています。底部には、かつて液体が存在した痕跡が残っています。1932年（あるいは1936年）に、バグダッド近郊のテル・アビ・ホイヤット・ランプファで、呪文が書かれた他の土器と共に発見されました。

電池説

1938年、イラク国立博物館のドイツ人研究者ヴィルヘルム・ケーニヒが、この土器がガルバニ電池の一種ではないかと論文を発表しました。その後、様々な実験が行われ、酢やワインなどの電解液を用いることで、実際に0.9～2ボルト程度の電圧を発生させることが確認されました。このことから、古代の人々がこの土器を電池として使用していた可能性が示唆されました。実験では、ブドウジュースを用いて金メッキ加工を行うことも成功しており、装飾品の加工に用いられていたという説も提唱されています。

しかし、この電池説には反論もあります。当時の技術で、水銀アマルガム法など、電気を使わない金メッキ技術は既に存在していたため、電池説の根拠は弱いと言われています。また、感電による宗教体験を演出する装置や、電気療法のための装置だったという説も存在しますが、確証はありません。

電池説への反論と新たな解釈

ケーニヒは、この土器を紀元前250年頃のパルティア朝時代のものと主張しましたが、彼の専門は画家であり考古学者ではありませんでした。考古学的な調査によると、土器の様式はサーサーン朝様式（紀元後3世紀～7世紀）のものであり、チグリス川河畔の遺跡からも同様の土器が多数発見されています。これらの土器の中には、パピルスの繊維が確認されているものもあり、宗教的な祈祷文を保管するための容器だった可能性が高いとされています。金属棒は巻物の芯棒、金属筒は保護容器だったという説が有力視されています。電池に似た構造になったのは、パピルスが腐敗して消滅し、金属部分だけが残ったためだと考えられています。

未解明の謎

バグダッド電池は、その真の用途が未だに明らかになっていない、謎めいた古代遺物です。電池説、宗教儀式用容器説など、様々な説が提唱されていますが、いずれも決定的な証拠に欠けています。今後の研究によって、この古代の謎が解き明かされることを期待しましょう。 その構造の精密な分析、周辺出土物の更なる調査、そして当時の技術や社会状況に関する更なる研究が、この謎を解く鍵となるでしょう。バグダッド電池は、古代文明の高度な技術力や、私たちがまだ知らない彼らの生活様式の一端を垣間見せる、貴重な証拠であると言えるでしょう。

もう一度検索