バシリスの娘

『バシリスの娘』は、さいとうちほが描く、時代を超えた愛と宿命の物語です。

物語は、大正14年の北軽井沢から始まります。翠川子爵邸で働く馬番の娘、もみじは、誰も乗りこなせない駿馬バシリスを操る才能を持っていました。ある日、もみじは子爵家の淡（あわ）と再会し、恋に落ちますが、淡は事故で命を落としてしまいます。二人の短い幸福な時間は、悲劇的な結末を迎えるのです。

時は流れ、舞台は1997年の現代へと移ります。もみじの曾孫である和泉朱夏は、彫刻家を目指す女性でした。彼女は、いつかバシリスの像を作り上げ、名声と富を得るという野望を抱いています。物語は、朱夏を中心に、過去と現在が交錯しながら展開していきます。

登場人物

和泉 朱夏（いずみ しゅか）：22歳。もみじと淡の曾孫で、彫刻家を目指す。志方恒に師事し、彫刻だけでなく女性としての生き方も学んでいます。
翠川 流都（みどりかわ りゅうと）：ホテル・バシリスのオーナー。淡と正妻の孫で、病弱な体質。
志方 恒（しかた こう）：38歳。世界的に有名な彫刻家で、アルコール依存症に苦しんでいます。朱夏の師匠。
翠川 一馬（みどりかわ かずま）：流都の甥。志方を一方的に師と仰いでいます。
和泉 日輪（いずみ ひわ）：もみじと淡の娘であり、朱夏の祖母。愛煙家。
和泉 灯（いずみ あかり）：日輪の娘で、朱夏の母。朱夏を産んですぐに亡くなります。
藍田 瑠璃（あいだ るり）: 流都のいとこで婚約者。
里見 宗光（さとみ むねみつ）：流都の秘書であり、藍田家のスパイでもあります。しかし、流都を第一に考えて行動します。
もみじ：翠川子爵邸の馬番の娘。自らを「調教師」と称しています。バシリスを乗りこなす才能の持ち主。
翠川 淡（みどりかわ あわ）：翠川子爵の甥。外国人の血を引いています。妻子を残して別荘にやってきて、もみじと再会し恋に落ちます。
翠川 竜介（みどりかわ りゅうすけ）：子爵であり、淡の伯父。
バシリス：1920年に翠川竜介がイタリアで購入した駿馬。イギリスのダービーを三つ制覇した記録を持ちます。ギリシャ語で「王女」を意味します。

『バシリスの娘』は、大正時代と現代という二つの時代を舞台に、一頭の駿馬を軸に、人々の愛憎、野望、そして運命が複雑に絡み合う物語です。過去の出来事が現代に影響を与え、登場人物たちの人生を大きく揺さぶります。さいとうちほの繊細な筆致で描かれる美しい絵柄も、この作品の大きな魅力の一つです。

単行本は全4巻、文庫版は全2巻で刊行されています。

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