バスク民族主義党

バスク民族主義党(EAJ-PNV)：バスク地方のアイデンティティと自治を求める闘い

バスク民族主義党（EAJ-PNV）は、スペインとフランスにまたがるバスク地方における主要な民族主義政党です。1895年の結党以来、バスク人の民族意識と自治権拡大を訴え、バスク地方の政治に大きな影響力を持ってきました。本稿では、その歴史、思想、組織、そして現代における活動について詳細に解説します。

思想と組織：穏健な民族主義と国際協調

現代のEAJ-PNVは、バスク地方の独立を直接訴えるのではなく、高度な自治権の獲得を目指しています。暴力行為には反対し、バスク分離独立を目指す武装組織ETAとは明確に距離を置いています。

EAJ-PNVは、当初はキリスト教民主主義的な色彩が強かったものの、現在は欧州民主党に所属し、国際的な政治ネットワークの中で活動しています。欧州連合の統合プロセスにも積極的に関与し、欧州憲法やリスボン条約を支持する立場を表明してきました。

スペインにおける正式名称はEuzko Alderdi Jeltzalea-Partido Nacionalista Vascoで、略称としてEAJ-PNVが用いられます。フランス領バスクにも支部政党が存在し、アメリカ合衆国、ラテンアメリカなど海外のバスク人コミュニティにも事務所を置いて、広範な活動を行っています。青年組織Euzko Gaztedi（EGI）も重要な役割を担っています。

歴史：伝統と自治の闘い

EAJ-PNVは、「神と古い法(Jaungoikoa eta Lagi-zar'a)」を標語としています。「古い法」とは、中世のバスク地方の自治を保障したフエロス(Fueros)を指し、バスク民族の伝統と自治への強い意志を示しています。

1895年の結党は、サビーノ・アラナらによって主導されました。当初はキリスト教保守主義を掲げ、フエロスに基づく地方自治の回復とバスク民族のアイデンティティの保護を訴えました。党員には、バスク語の姓を持つことが求められました。

20世紀初頭、EAJ-PNVは、穏健派と独立志向の強いグループに分裂しましたが、プリモ・デ・リベーラの独裁時代を経て再統一されました。スペイン第二共和国時代には、自治と独立をめぐる路線対立が再び表面化し、党内での議論が続きました。

スペイン内戦とフランコ体制：試練と亡命

スペイン内戦(1936-1939)において、EAJ-PNVは複雑な立場に置かれました。カトリック主義との共通点からフランコ軍との協調も模索されましたが、共和国政府から約束された自治と反ファシズムの立場から、共和国側につきました。

内戦中は、フランコ軍によるバスク地方の占領と弾圧を受け、多くの党員が犠牲となりました。バスク自治政府が成立するも、1937年にはビルバオが陥落し、バスク軍は敗退しました。

フランコ体制下では、バスク語の使用禁止など、バスク文化と民族運動への厳しい弾圧が続きました。EAJ-PNVは亡命政府を樹立し、アメリカ合衆国などで活動しました。一方で、1959年には、EAJ-PNVの穏健路線に不満を持つ若者によってETAが結成されました。

現代：自治強化とETAとの対立

1978年のスペイン憲法制定後、バスク3県（ビスカヤ、ギプスコア、アラバ）にバスク自治州が設立されました。EAJ-PNVは、その後、バスク自治州政府を長年率いてきました。

1980年代以降、EAJ-PNVは、バスク連帯(EA)など他のバスク民族主義政党と協力しつつ、自治権の拡大を目指してきました。2003年には、自治憲章改正案を提出しましたが、スペイン政府によって否決されています。

ETAの活動は2010年代に終息しましたが、その影響は依然としてバスク地方の政治に影を落としています。EAJ-PNVは、ETAとの対立を乗り越え、バスク地方の平和と繁栄、そして自治権拡大という課題に取り組んでいます。

備考：Alderdi Eguna

9月の最終日曜日には、Alderdi Eguna（党の日）が開催されます。これはバスクの守護聖人ミカエルの聖名祝日に近い日であり、政治集会と祭りが融合した一大イベントです。

参考文献

渡部哲郎『バスクとバスク人』（平凡社新書、2004年）

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