バスク紛争

バスク紛争とは

バスク紛争は、1959年からスペインとフランスの両国にまたがるバスク地方の独立を求めて行われた武力闘争です。この紛争は、特にスペインでは「スペイン・ETA紛争」とも呼ばれ、ヨーロッパにおける民族解放闘争の一つとして知られています。北アイルランド紛争やコルシカ島のアレリア闘争と並び、長年にわたる民族自決を求める運動として、国際的な注目を集めました。

紛争の勃発

バスク紛争の背景には、スペイン内戦時のバスク地方の状況があります。フランシスコ・フランコ政権下でバスク文化への弾圧が行われたことが、独立運動の芽を育みました。1952年、アイルランド共和軍を参考に、バスク祖国と自由（ETA）の前身団体が誕生。バスク愛国民族主義党の青年部指導者が初期の指導部となり、反フランコ政権、反独裁政権を掲げました。1959年から1962年にかけて、ETAが正式に組織化され、活動を開始します。

1961年7月16日、ETAはスペイン内戦の記念式典に参加していた旧フランコ派の兵士が乗る列車に爆弾を仕掛けました。このテロ行為に対し、スペイン当局はETA活動家を次々と逮捕し、長期刑を科しました。その後もETAは警察による拷問を含む弾圧を受けましたが、キューバ革命に触発されたバスク大衆の民族運動は激化。治安部隊とETAの間で銃撃戦、暗殺、刑務所襲撃などが頻発しました。

フランコ政権以降

1973年、ETAはスペイン首相ルイス・カレーロ・ブランコを、彼が乗車中の車ごとマドリードで爆破して暗殺しました。1975年にフランシスコ・フランコが死去し、1977年にはバスク地方で初の総選挙が実施され、民族主義を掲げる左派政党が勝利。バスク地方は正式に「自治区」として認められました。しかし、1978年のスペイン新憲法でバスク人をスペイン人として扱う方針が示されたことで、バスク地方では反対運動が再燃しました。

1983年、スペイン当局は非公式に反テロリスト解放グループ（GAL）を設立し、南フランスで活動するETA活動家を暗殺しました。ETAもGALの指導者を暗殺するなどして対抗しました。GALによる暗殺は1987年の解散まで続き、GALの指導者たちは翌1988年に逮捕され、長期刑に服しました。

1987年には、ETAの最高指導者ドミンゴ・イツルベ・アパソロが亡命先で事故死。後継者としてフランシスコ・ムヒカ・ガルメンディアが指名されましたが、1992年にガルメンディアを含む主要幹部がフランスで逮捕され、組織再編に取り組んだイニヤキ・ビルバオもフランス警察に逮捕されたことで、ETAは一時的に壊滅状態となりました。

停戦へ

冷戦終結後、2001年のアメリカ同時多発テロや1998年の北アイルランド和平合意など、テロリズムを取り巻く状況が変化した後もETAは活動を継続しました。しかし、2006年のマドリード＝バラハス空港爆弾事件やグアルディア・シビル隊員射殺事件に関与したとして、2008年11月にはETA幹部のミゲル・ガリコイツ・アスピアス・ルビーナが逮捕されました。2009年にはパルマノバ爆弾事件を起こしましたが、実行犯は2009年から2010年にかけて逮捕され、フランス国内の隠れ家から大量の爆発物が押収されました。その後、2011年10月にETAは休戦を発表し、2014年には武器の一部を国際検証委員会に提出する動画を公開しました。

ETAの解散へ

長年の紛争で、ETAによるテロによって343人の民間人が犠牲となり、治安部隊も486人（グアルディア・シビル203人、スペイン国家警察146人、スペイン陸軍98人など）の犠牲者を出しました。一方、ETA側も治安部隊の攻撃により約400人が死亡し、4250人が負傷、約3万人が逮捕されました。長年にわたる紛争は、双方に深い傷跡を残しました。

ETAの関与が疑われた事件

以下の事件は、当初ETAによるテロと疑われましたが、後に他の武装勢力によるものと判明しました。

マドリード列車爆破テロ事件：2004年3月11日に発生。191人が死亡、2,050人が負傷。犯行組織はアルカイダ。
2017年バルセロナテロ攻撃事件：2017年8月17日に発生。13人が死亡、100人以上が負傷。犯行組織はISIL。

参考文献

大泉光一『バスク民族の抵抗』（新潮選書）、1993年10月、ISBN 978-4106004483

関連項目

バスク・ナショナリズム

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