バス規制緩和 (英国)

イギリスのバス規制緩和：歴史、影響、そして現在

1985年、イギリスでは保守党サッチャー政権の下、運輸法に基づきバス事業の規制緩和が行われました。この改革は、長らく公営企業が支配していたバス業界に競争原理を導入し、大きな変化をもたらしました。

歴史的背景

1980年代初頭、イギリスのバス網はナショナル・バス・カンパニーをはじめとする公営企業によって運営されていました。厳しい規制が存在し、自由な競争はほとんどありませんでした。サッチャー政権は、この状況を打破するため、バス産業に関する白書を公開し、1985年運輸法を制定しました。この法律は1986年10月26日に施行され、イングランド、スコットランド、ウェールズでバス規制緩和が実施されました。ただし、ロンドンは当初この法律の対象外であり、後に分割・民営化されました。

運輸法の主な内容は、路線ごとの運行認可の撤廃です。これにより、バス運行資格を持つ事業者は、運行開始の56日以上前に運輸委員会に届け出るだけで、自由にバス路線の新設、廃止、変更ができるようになりました。これは、1930年代以来初めてバス事業に競争が導入された瞬間でした。

規制緩和直後から、既存の事業者は収益性の高い路線で新規参入業者との競争にさらされました。公営事業者も収益増加を目指して他地域に進出し、競争は激化しました。競争の手段としては、運賃の値下げや増便などが用いられました。

また、1985年運輸法は、国営のナショナル・バス・カンパニーの民営化も規定しました。同社は70社に分割された後、売却されました。多くの会社でマネジメント・バイアウトが行われ、従業員による株式所有制度（ESOP）を導入した企業もありましたが、これらの企業はやがて大手交通事業者に買収されていきました。

公営バス事業は民営化が強制されませんでしたが、自治体から独立した運営が求められました。

規制緩和の影響：バス戦争の勃発

規制緩和によって激化した競争は、「バス戦争」と呼ばれる状況を引き起こしました。過度な競争は安全を脅かす行為や不正行為につながることもあり、規制当局の介入が必要となるケースも発生しました。

初期の例として、1998年にはサザン・ヴェクティスが、ニューポート・バス・ステーションへの他社乗り入れを禁止しないよう公正取引局から命令を受けました。また、競争相手を排除する目的だけの増便も禁じられました。

2000年には、ステージコーチ・マンチェスターが競合他社の乗客を奪うためにバス検査官を雇っていたことが発覚しました。2004年から2005年にかけては、カーディフ・バスが競合の2 Travelを倒産させるために、略奪的な手法を用いたことが明らかになりました。2006年から2007年には、マンチェスターのウィルムスロー・ロード・バス回廊と192号線で、ステージコーチ・マンチェスターとUK North社との間でバス戦争が勃発し、UK North社が安全を軽視した運営を行っていたとして、2人が逮捕されました。2009年11月には、競争委員会がステージコーチに対し、プレストン・バスの買収が地域の競争環境に悪影響を与えたとして、売却を命じました。2011年には、ウェザービーでコネクションズとトランスデフ・イン・ハロゲートの間でバス戦争が発生しています。

現在のバス事業者

現在、公営のバス事業者は12社のみとなっています。最大の事業者はエディンバラのロージアン・バスズです。2010年時点では、アリーヴァ、ファースト、ゴー・アヘッド、ナショナル・エクスプレス、ステージコーチ・グループの5社が市場の約70%を占めていました。ドイツ鉄道傘下のアリーヴァを含め、海外の交通事業者もイギリスのバス事業に参入しており、そのシェアは増加傾向にあります。

まとめ

イギリスにおけるバス規制緩和は、競争原理の導入という点で大きな転換点となりました。しかし、過度な競争による「バス戦争」や安全性の問題も引き起こしました。現在では、大手事業者による寡占化が進む一方で、海外からの参入も増加しており、市場は常に変化しています。この歴史的経緯を理解することは、現代の公共交通政策を考える上で重要な意味を持つでしょう。

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