バックトルクリミッター

バックトルクリミッター：逆トルクを制御する技術

バックトルクリミッターは、動力伝達系において、出力側から逆方向に伝わるトルク（バックトルク）を制限する機構です。主に、急激な減速時などに発生する、意図しない逆回転によるトラブルを防止する役割を果たします。

オートバイにおけるバックトルクリミッター

オートバイにおいては、バックトルクリミッターは後輪のスリップを抑制するために重要な役割を果たします。減速時、特にエンジンブレーキが強く作用する状況下では、後輪にかかる荷重が減少し、スリップしやすくなります。バックトルクリミッターは、このスリップを防止するために、後輪から伝わるバックトルクを制御します。

多くの場合、オートバイのバックトルクリミッターは多板クラッチに内蔵されており、スリッパークラッチやスライダークラッチと呼ばれることもあります。これらのクラッチは、バックトルクが発生すると、クラッチの摩擦係数を自動的に調整したり、クラッチ容量を一時的に減少させることで、エンジンブレーキの効き具合とバランスを取りながら、後輪のスリップを抑制します。完全にバックトルクを遮断してしまうとエンジンブレーキが効かなくなるため、適切な制御が求められます。

バックトルクリミッターの歴史

バックトルクリミッターの起源は、1970年代にJohn Gregoryが製作したドラッグレース用オートバイ「Norton Hogslayer」にまで遡ります。このオートバイに搭載されたクラッチは、特殊な焼結青銅板を用いたバックトルクリミッターを内蔵しており、驚異的な速度を記録しました。この成功が、バックトルクリミッターのオートバイ設計への導入を促すきっかけとなりました。

その後、1980年代にはホンダが、NV750やシャドウVT700/VT750シリーズにワンウェイクラッチを用いたバックトルクリミッターを搭載しました。これは、複数のフリクションプレートの一部を制御することで、バックトルク発生時にクラッチ容量を減少させる仕組みでした。さらに、1985年からは耐久レースやスーパーバイク世界選手権といった高度なレースシーンにおいて、高性能オートバイへの採用が始まり、ホンダRVF750がその先駆けとなりました。その後、1989年には市販車であるホンダVFR400Rにも搭載されるようになりました。

その他の用途

バックトルクリミッターは、オートバイ以外にも、一部の実験用飛行機やラジコン模型自動車などにも用いられています。これらの用途においても、急激な回転変化による損傷や制御不能を防ぐために重要な役割を果たしています。

まとめ

バックトルクリミッターは、動力伝達系の保護と制御に不可欠な技術です。特にオートバイにおいては、安全な走行と高い走行性能の両立に貢献しており、その重要性はますます高まっています。今後も、より高度な制御技術の開発が期待されます。

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