バック・イン・ザ・U.S.S.R. (アルバム)

バック・イン・ザ・U.S.S.R.: ポール・マッカートニーの特異なカバーアルバム

『バック・イン・ザ・U.S.S.R.』（原題: Снова в СССР）は、ポール・マッカートニーによるカバーアルバムで、1988年にソビエト連邦でのみ特別にリリースされました。このアルバムは、当時のソビエトにおけるロックの禁止と西側音楽への渇望という背景の中で生まれました。1991年にはボーナストラックを追加したCD版が世界でリリースされ、ポールの音楽の普遍的な魅力が再確認されることとなります。

このアルバムの原題「CHOBA B CCCP」は、1968年にリリースされた伝説的なビートルズの「ホワイト・アルバム」に収録された『バック・イン・ザ・U.S.S.R.』のロシア語訳です。キリル文字で書かれているため、一見するとラテン文字に見えるものの、実際の発音は「スノーヴァ・フ・エス・エス・エス・エル」です。これらの言葉には、ポール自身の音楽的ルーツへの回帰と、ロシアのファンに向けた想いが込められています。

制作の背景

1986年、マッカートニーはアルバム『プレス・トゥ・プレイ』を発表しましたが、思うような評価を得られませんでした。彼は1987年の初めに新たなアルバムの構想に没頭し、特に1950年代のスタンダード・ナンバーに触れる必要性を感じました。7月には、親しいセッション・ミュージシャンたちとともに、お気に入りの曲を2日間で録音するという挑戦をしました。このセッションでは22曲が録音され、その中から11曲が初版として選ばれました。1988年末には、追加トラックを含むセカンド・プレスがリリースされ、曲数も13曲に増えました。

また、1991年のCD版のリリースに際しては、シングル「アイム・イン・ラヴ・アゲイン」がボーナストラックとして収録され、最終的にアルバムは14曲の構成に達しました。しかし、録音された全ての曲が公式にリリースされたわけではありません。一部の楽曲は、他のアルバムやシングルで後に披露されました。

アルバムのアートと影響

ソビエト版LPのジャケットは、リンダ・マッカートニーによってデザインされています。ポールの写真と赤い星が組み合わされたアートは、当時の状況を象徴しています。ジャケットの裏面には、ロシア語で音楽評論家ロイ・カーによる解説が掲載されており、音楽の解釈や意義が示されています。

このアルバムは、ソビエト国内でのロック音楽の流通が難しい時代に生まれた特別なものでありました。ポールは、ソビエトのファンに対する贈り物としてこの作品を制作し、逆に西側での入手を難しくする意図があったとされています。結果的に、ソビエト以外の国ではブートレグなどの形で出回り、1991年にしてようやく世界を席巻することとなります。

アルバムの収録曲

アルバムには多様なアーティストの名曲が収録されています。たとえば、カンサス・シティやサマータイム、ローディ・ミス・クローディなど、多くの名曲がマッカートニーのスタイルで再解釈されています。特に気になるのは、アルバムのロシア語タイトルがCD版で誤って印刷されていた点で、それが更なる話題を呼びました。

参加ミュージシャン

このアルバムには、ポール・マッカートニー自身がベースやギターを担当し、セッション・ミュージシャンとしてミック・ギャラガー、クリス・ウィッテンなどが参加しています。彼らの活躍によって、アルバムはより深みと色彩を持つものとなりました。

集大成として、このアルバムはマッカートニーの音楽人生における一つの転機であり、当時のソビエトの状況をも反映した作品となっています。ロック音楽の力を再確認させられると同時に、ポール・マッカートニーの多様な才能を感じさせてくれるリリースでした。

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