バッチョ・バンディネッリ

バッチョ・バンディネッリ（Baccio Bandinelli）、本名バルトロメーオ・ブランディーニは、1488年10月7日にフィレンツェで生まれ、1560年2月7日に没したイタリアの彫刻家です。彼はミケランジェロ・ブオナローティやベンヴェヌート・チェッリーニといった同時代の巨匠たちと並び称される存在でした。

バンディネッリは、フィレンツェで著名な金細工師ミケランジェロ・デ・ヴィヴィアーノ・デ・ブランディーニの息子として生まれました。彫刻家としての道を歩み始めた彼は、ジョヴァニ・フランチェスコ・ルスティチに師事しました。古代彫刻の研究に励み、その成果は1514年にサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂のために制作した使徒ペトロ像で初めて注目を集めました。この作品が評価され、1515年にはメディチ家出身の教皇レオ10世に招かれてローマに移り住むことになります。ローマでは、彼はさらに古代彫刻の研究を深めることができました。特に、1506年に発掘された『ラオコーン像』は彼に大きな影響を与え、教皇の命によりその複製を制作しました。

メディチ家からの依頼は多く、レオ10世が1521年に亡くなった後も、1534年に亡くなったクレメンス7世のサンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会の廟墓を制作しました。また、フィレンツェのシニョリーア広場に設置された『ヘラクレスとカクス』は、ミケランジェロのダビデ像と並び、彼の代表作として知られています。この作品は、ミケランジェロのダビデ像の対となるように設置されましたが、その評価は賛否両論でした。

1530年代後半になると、バンディネッリはローマからフィレンツェに戻り、フィレンツェ公となったコジモ1世の宮廷で働くことになりました。この時期、彼の工房では後に『画家・彫刻家・建築家列伝』を著すジョルジョ・ヴァザーリも働いていましたが、ヴァザーリはその著作の中でバンディネッリに対して批判的な評価を下しています。これは、バンディネッリがヴァザーリの才能を妬み、彼を圧迫したことへの反発があったと言われています。

バンディネッリの人物像については、ミケランジェロの才能に対する嫉妬心から、ミケランジェロの壁画の下絵を盗み出して破壊したという逸話や、騎士の称号を得るために自身の出自を改ざんしたという噂など、様々なエピソードが伝えられています。これらのエピソードは、彼の芸術家としての才能とは別に、彼の人間性に対する評価が複雑であることを示しています。彼の作品は、その技術的な高さにもかかわらず、同時代の芸術家たちや後の歴史家たちから必ずしも好意的な評価を受けているとは限りません。しかし、その作品は、ルネサンス期の彫刻の多様性と複雑さを理解する上で、重要な位置を占めています。

彼の代表作として知られる『ヘラクレスとカクス』は、その力強い表現と、ミケランジェロのダビデ像との対比によって、今日でも多くの人々を魅了しています。しかし、この作品が設置された当初から、その表現や構成に対する批判は少なくありませんでした。特に、ヘラクレスの体躯が不自然であるという指摘が多く、これはバンディネッリがミケランジェロの作品に対する対抗意識を持ちすぎていたのではないかという批判につながっています。また、彼の人物像や逸話は、後世の芸術家や歴史家によって様々な解釈がなされており、彼の芸術と人間性を理解する上で興味深い側面を提供しています。

バンディネッリの作品は、現在もイタリア各地の美術館や教会で見ることができます。彼の作品を通じて、ルネサンス期の芸術の隆盛と、その中で生きた芸術家たちの複雑な人間関係や葛藤を垣間見ることができるでしょう。

参考資料:
ベンヴェヌート・チェッリーニ,『Apparati della Vita』, Milano, Classici Bur, 2007
フランソワーズ・ヴィアット,『Baccio Bandinelli』, Milano/Paris, Officina Libraria/éditions du musée du Louvre, 2011
* デトレフ・ハイカンプ、ベアトリーチェ・パオロッツィ・ストロッツィ,『Baccio Bandinelli』, Giunti, 2014

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