バトゥミ共和国

バトゥミ共和国の成立と崩壊

バトゥミ共和国は、現在のジョージア西部に位置するバトゥミにかつて存在した、イギリスの傀儡国家です。その成立は、第一次世界大戦という激動の時代に翻弄されたカフカース地方の複雑な政治情勢を背景としていました。

バトゥミの歴史的背景

1878年、サン・ステファノ条約によって、バトゥミはオスマン帝国からロシア帝国へと割譲されました。その後、第一次世界大戦が勃発すると、オスマン帝国（中央同盟国）とロシア帝国（連合国）はカフカース戦線で激しく戦火を交えました。しかし、1917年にロシア革命が起こり、帝政が崩壊すると、ロシアは混乱に陥ります。1918年3月3日、ロシアはブレスト＝リトフスク条約を締結し、戦争から離脱。この条約によってバトゥミ周辺は放棄され、オスマン帝国軍が1918年4月14日にバトゥミを併合しました。

ロシアからの独立を宣言していたグルジア民主共和国は、オスマン帝国との戦闘を継続。しかし、6月4日のバトゥミ平和条約によって、オスマン帝国の支配が確立しました。

イギリスによる占領とバトゥミ共和国の成立

オスマン帝国がバトゥミを支配下に置いたのも束の間、1918年12月25日、連合国の一員であるイギリスによってバトゥミは占領されます。イギリスは、ジェームズ・クック＝コリス少将をバトゥミの知事に任命し、軍政を開始しました。さらに、バトゥミ議会が設置され、1919年1月12日にはバトゥミ共和国として独立宣言が行われました。しかし、この独立は長くは続かず、同年4月14日にはバトゥミ議会が解散され、バトゥミ共和国は消滅しました。

イギリスの戦略的な意図

イギリスがバトゥミを占領した背景には、戦略的な理由がありました。当時、石油は石炭に代わる次世代エネルギーとして注目されており、バクー油田（現在のアゼルバイジャン）は世界最大の油田でした。バクーとバトゥミを結ぶパイプラインを支配することで、イギリスは石油利権を確保しようとしていたのです。

1920年4月8日、イギリスはバトゥミを自由港と宣言し、国際連盟の管理下でイギリス、フランス、イタリアの3か国による共同統治を計画しました。

バトゥミの再編とソ連の影響

イギリスの占領政策は、現地住民の反感を買い、グルジアはバトゥミの返還を要求しました。同時期、ボリシェヴィキ（ソビエト共産党）はカフカース諸国に勢力を拡大し、1920年4月にはバクーを占領。これにより、石油輸送が困難になったイギリスは、バトゥミへの関心を急速に失いました。

1920年6月、イギリスはバトゥミからの撤退を決定。7月7日にグルジアはバトゥミを併合しました。しかし、1921年2月15日にボリシェヴィキがグルジアを攻撃し、トルコはイスラム教徒の保護を名目にバトゥミを占領しました。グルジア民主共和国政府は首都トビリシが陥落し、バトゥミへ移転しましたが、3月18日にトルコとボリシェヴィキの間でモスクワ条約が締結され、トルコ軍は撤退。グルジア民主共和国政府は国外へ亡命しました。

ソビエト連邦の一部へ

その後、グルジアはソビエト社会主義共和国となり、1921年7月16日にはバトゥミを首都とするアジャリア自治ソビエト社会主義共和国が設置されました。バトゥミは、その戦略的な重要性から、常に周辺の大国によって翻弄され続けた歴史を持つ都市であると言えます。

バトゥミ共和国は短命に終わりましたが、その成立と崩壊は、第一次世界大戦後の複雑な国際情勢と、資源をめぐる列強の思惑を象徴する出来事でした。

もう一度検索