バトルランナー

『バトルランナー』は、リチャード・バックマン名義で1982年に出版された長編小説です。この「リチャード・バックマン」は、『スタンド・バイ・ミー』や『グリーンマイル』といった数多くの名作で知られるスティーヴン・キングが使用していたペンネームであり、本作もキングの作品の一つとして数えられます。

ストーリー

物語は、西暦2025年の荒廃した世界を舞台に展開されます。アメリカは巨大な管理国家へと変貌し、都市部には大量の失業者が溢れています。彼らの唯一の娯楽は、無料視聴テレビ「フリテレ」で放映される、残酷な内容のクイズやゲーム番組でした。

主人公のベン・リチャーズは、この失業者の一人です。難病を患う1歳6ヶ月の娘の治療費を捻出するため、そして困窮する家族を救うため、ベンは意を決してテレビ番組への出演を応募します。数々の選抜を経て彼が出演することになったのは、全米で最高の視聴率を誇る人気番組「ランニングマン」でした。この番組の実態は、全米を巨大なフィールドとする「人間狩り」に他なりません。

番組のルールは極めてシンプルかつ苛烈です。参加者は逃亡を続け、逃げ延びた1時間ごとに100ドルの賞金を得られます。もし1ヶ月間逃げ切ることができれば、さらに10億ドルという破格のボーナス賞金が与えられます。しかし、捕獲されればテレビカメラの前で容赦なく殺害される運命にあります。参加者は定期的に自身の姿をビデオに収め、これを放送スタジオへ投函しなければなりません。この生存報告テープはそのまま番組で放送されます。さらに、視聴者も参加者の目撃情報を提供したり、自ら捕獲を試みることが可能で、成功した視聴者には報奨金が支払われます。文字通り、参加者は全視聴者を敵に回して逃走することになるのです。

ベンは、この殺人ゲームの出演者として、決死の逃亡劇を開始します。番組スタジオのあるニューヨークで、変装用の道具や偽造身分証明書を入手したベンは、ボストンへと逃れます。ボストンでハンターの追跡を巧みにかわした彼は、偶然出会ったギャングのブラッドリーから、政府の不正な手口や、それに対抗する反政府ネットワークの存在を知ることになります。反政府ネットワークの協力を得て、マンチェスターからポートランドへと移動したベンは、ブラッドリーに紹介された友人エルトンの家に匿われ、わずか3日間の安寧を得ます。

しかし、ハンターがブラッドリーを拷問にかけたこと、そしてエルトンの母親が「息子のため」と通報したことから、ベンの隠れ家は露見し、再び逃亡を余儀なくされます。彼はアメリア・ウィリアムズという女性の車をカージャックし、彼女を人質に取りながら、デリーを通過してメイン州を逃走し、空港へと向かいます。空港では、警官やハンターの妨害を乗り越え、逆にハンターのチーフであるエヴァン・マッコーンを捕らえることに成功します。マッコーンを人質に乗せたベンは飛行機で飛び立ち、地対空ミサイルによる撃墜を避けるため低空飛行を続けます。この時点で、ベンの逃亡開始から8日と5時間が経過しており、彼は番組史上最長の生存記録を更新していました。

番組のエグゼクティブ・プロデューサーであるダン・キリアンは、ベンにマッコーンの代わりにハンターのチーフにならないかと持ちかけます。残してきた家族を案じて躊躇するベンに対し、キリアンは、彼が番組出演のために家を出た後の10日以上前に、家族が強盗に惨殺されていたという衝撃的な事実を伝えます。家族の死を知り絶望したベンは、キリアンの提案を受け入れると見せかけ、マッコーンを殺害しますが、その際に自身もマッコーンから重傷を負います。

瀕死の重傷を負いながらも、ベンは人質として付き合わせたアメリアをパラシュートで脱出させます。そして最後の力を振り絞り、飛行機をキリアンが待つ放送スタジオのある巨大なビルに向けて突入させました。

物語は「20ブロック離れた地域にも火の雨が降った」という描写で幕を閉じ、ベンの壮絶な反撃と破滅的な結末が描かれます。

登場人物

ベン / ベンジャミン・スチュアート・リチャーズ：本作の主人公。28歳の失業者。病気の娘の治療費のために「ランニングマン」に参加する。
ブラッドリー・スロックモートン：ベンを手助けする18歳の黒人青年。反政府ネットワークと繋がりを持つ。
エルトン・パラキス：ブラッドリーの友人。ベンを匿うが、母親の通報によりハンターと戦い命を落とす。
アメリア・ウィリアムズ：ベンにカージャックされ、人質となる女性。
エヴァン・マッコーン：「ランニングマン」のハンターのチーフ。視聴者にも広く知られる悪役。
ダン・キリアン：「ランニングマン」のエグゼクティブ・プロデューサー。冷徹な人物。

映像化

本作は1987年にアーノルド・シュワルツェネッガー主演で映画化されています。ただし、映画版は原作小説とはストーリーや設定が大きく異なっており、当時人気だった番組『ザ・グラディエーターズ』をベースにした内容となっています。

バトルランナー