バラサン岬

バラサン岬の概要と歴史

北海道厚岸郡厚岸町の湾月と愛冠地区にまたがる海岸線に位置するのがバラサン岬です。別名をパラサン岬とも呼ばれ、厚岸市街地の南部に広がるこの岬は、美しい厚岸湾を一望できる風光明媚な場所として親しまれています。また、江戸時代に創建された蝦夷三官寺の一つ、国泰寺が敷地内にあり、歴史的な深みも兼ね備えています。

この岬の歴史は古く、江戸時代には既に松前藩の勤番所が設置されていました。記録によると、当時のバラサン岬付近の沼地にはアイヌの人々が暮らしていたとされています。明治時代に入ると、この地には観月楼と呼ばれる遊郭が存在した時期もありました。さらに、1891年（明治24年）には、実業家の木下成太郎氏によって、日本で初めてのヨード工場がバラサン岬に建設されるという、近代産業史においても重要な一歩が刻まれました。

かつて、バラサン岬はその現在よりも20メートル以上も沖合に突き出ており、さらに壮麗な景観を呈していたと言われています。しかし、明治時代に実施された釧路港の防波堤建設工事において、この岬から岩石が切り出された結果、現在の姿へと大きく変化しました。岬が削られたことによって、厚岸湾内の波が高まるという影響が生じ、これに伴い漁業に用いられる干場が浸食されるなどの被害も発生しました。

名称の由来と伝説

バラサン岬という名称は、アイヌ語に由来すると考えられています。その語源についてはいくつかの説があり、「広い柵」や「獣を捕るための罠」を意味するアイヌ語から来ているという説が有力です。また、後述する伝説に関連して、バラサンが「魚を竿に刺して干物を作る」という作業を指す言葉に由来するという資料も存在します。

この地には、古くからアイヌの人々に語り継がれる神秘的な伝説があります。伝説によれば、かつてこの厚岸の海には「ピラッカムイ」と呼ばれる巨大な神魚が棲んでいました。この神魚は、背中に船を乗せて転覆させると恐れられていたため、アイヌの人々はピラッカムイを大変畏敬していました。ある日のこと、この恐ろしいピラッカムイが厚岸湾に姿を現しました。その時、浜辺で魚の干物を作っていた一人の娘がこれを発見し、厚岸の町は大きな騒ぎとなりました。多くの人々が浜辺に集まり、その様子を見守る中、不思議なことに巨大なピラッカムイは突然、巨大な岩へと姿を変えました。そして、この岩こそが現在のバラサン岬の山となったと伝えられています。この伝説以来、付近を通る船乗りたちは、海の安全を祈願し、神酒などを供えてから航行するようになったと言われています。

バラサン岬は、このように自然の美しさだけでなく、豊かな歴史と神秘的なアイヌの伝説が息づく、魅力的な場所です。厚岸道立自然公園の一部でもあり、隣接する愛冠岬とともに、地域の重要な景勝地となっています。

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