バラムとロバ

レンブラント初期傑作『バラムとロバ』：聖書の物語を独自の解釈で描く

17世紀オランダ黄金時代の巨匠、レンブラント・ファン・レインによる油彩画『バラムとロバ』(L'Ânesse du prophète Balaam)は、彼の初期代表作の一つとして知られています。1626年、レンブラントがまだ20歳の若さで制作したこの作品は、旧約聖書『民数記』第22章の物語を主題としています。

聖書の物語：預言者バラムと不思議なロバ

本作は、預言者バラムがモアブの王からイスラエルを呪うよう依頼され、ロバに乗ってその地へ向かう途中の出来事を描いています。バラムのロバは、道に現れた天使の姿を見ますが、バラムにはそれが見えません。ロバは道を避けようとしますが、バラムは何度もロバを打ちます。最終的に、神はロバに言葉を話させる能力を与え、ロバはバラムの行動を咎めます。その時になって初めて、バラムは天使の姿を目撃し、神への畏敬の念を抱きます。

レンブラントの解釈：師へのオマージュと独自の表現

レンブラントは、師であるピーテル・ラストマンが1622年に描いた同主題の作品から影響を受けていますが、単なる模倣ではありません。ラストマンの作品では、天使はロバの正面に描かれていますが、レンブラントは天使をバラムの背後に配置することで、物語の重要な要素である「バラムには天使が見えない」という点を効果的に表現しています。これにより、バラムとロバという主要な二つの登場人物を画面の中心に据え、緊張感と劇的な対比を生み出しています。

絵画的特徴：光と影の魔術

レンブラント特有の明暗対比（キアロスクーロ）の手法は、本作においても顕著に用いられています。画面全体を覆う陰影は、物語の神秘的な雰囲気を高め、神の存在を感じさせます。ロバの毛並みやバラムの表情、そして周囲の風景までもが、繊細な筆致と巧みな光の効果によって生き生きと描写されています。

真筆論争と作品の位置づけ

かつて、本作の真筆については議論がありましたが、現在では多くの研究者によってレンブラントの真筆と認められています。作品には、レンブラントのモノグラム「RH」が記されています。

作品の情報

主題: 旧約聖書『民数記』第22章「バラムとロバ」
制作年: 1626年
技法: 板上に油彩
所蔵: パリのコニャック＝ジェイ美術館

参考文献

レンブラントの初期作品でありながら、聖書の物語を独自の解釈と卓越した表現力で描いた『バラムとロバ』は、彼の芸術家としての才能を明確に示す重要な作品と言えるでしょう。この作品は、レンブラント研究においても重要な位置を占め、後世の画家たちにも大きな影響を与えました。彼の初期の代表作として、そして聖書画としての価値も高く評価されています。

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