バリーモアの聖母

バリーモアの聖母：コレッジョ初期の傑作

「バリーモアの聖母」（Madonna Barrymore）として知られるこの絵画は、ルネサンス期のパルマ派の画家コレッジョ（本名：アントニオ・アッレグリ）が、1505年から1510年頃に制作したとされる油彩の聖母子像です。この作品は、コレッジョの初期の作風を示す貴重な例であると同時に、師であるアンドレア・マンテーニャの影響を色濃く残す作品としても知られています。

作品の特徴

この絵画では、幼児のイエス・キリストに授乳する聖母マリアが描かれています。裸の幼子イエスは、聖母マリアの腕の中で目を閉じ、幼い左手を母の乳房に添えて母乳を飲んでいます。右手は幼児特有の仕草で握りしめられています。聖母マリアはオリーブグリーンのドレスを身にまとい、その下半身は美しく明るい白のドレープで覆われています。ドレスのひだや洗練された装飾は、白のドレープによって明るく照らされており、その色彩と表現方法にはマンテーニャの影響が見られます。

美術史家デイヴィッド・エクセルジャンは、この絵画が若いコレッジョと師であるマンテーニャとの親和性をよく反映していると指摘しています。特に、聖母子の図像や暗い背景で人物を強調する色彩の選択は、マンテーニャの影響を強く示しています。それは、ミラノのポルディ・ペッツォーリ美術館に所蔵されている『眠る幼子といる聖母』やベルリンの絵画館に所蔵されている『ポルディ・ペッツォーリの聖母』といった作品にも見られる特徴です。コレッジョは、マンテーニャが好んだ半身像の聖母子像を踏襲しつつ、母子間の愛情に満ちた関係性を強調しています。また、ストラスブールのロアン宮殿所蔵の『ユディトとその侍女』と同様に、幻想的かつ物思いにふける雰囲気を作品全体に漂わせることに成功しています。

絵画には、ほぼモノクロの絵具で支えられたクリアで繊細な光が差し込んでおり、色彩は連続するグレーズを通して広がっています。この表現方法には、後にジョルジョ・ヴァザーリが賞賛することになるコレッジョの色彩を「扱う」能力がすでに現れていると評価されています。

制作の背景

聖母子という主題と小さな画面は、この作品が顧客の個人的な信仰のために制作されたことを示唆しています。発注者の詳細は不明ですが、コレッジョがこの作品を細部まで丁寧に描写していることから、発注者はそれなりに重要な人物であったと考えられます。

帰属について

この作品の帰属については、美術史家の間で議論がありました。1930年にコッラード・リッチによって最初にコレッジョの作品とされましたが、その後セシル・グールドが一時的にマンテーニャの作品と見なしました。しかし、最終的には「マンテーニャのサークル、おそらくコレッジョの作」という結論に至り、コレッジョの作品であることに同意しました。

作品が若いコレッジョによるものと仮定すると、制作年代は1508年から1510年の間と推定されます。

来歴

この絵画は、長らくアイルランド貴族のバリーモア伯爵家の血を引くスミス＝バリー家によって所有されていました。初代バリーモア男爵アーサー・ヒュー・スミス・バリーの死後、1933年にロンドンのサザビーズで競売にかけられ、美術商デュビーン・ブラザーズによって購入されました。その後、ニューヨークのサミュエル・H・クレス財団に売却され、1939年にナショナル・ギャラリー・オブ・アートに寄贈され、現在に至ります。

まとめ

「バリーモアの聖母」は、コレッジョの初期の作風を知る上で非常に重要な作品です。マンテーニャの影響を受けながらも、独自の光の表現や繊細な描写は、後のコレッジョの作風を予感させます。また、聖母子という普遍的なテーマを通じて、母と子の深い愛情を描き出したこの作品は、ルネサンス美術における重要な作品の一つと言えるでしょう。

現在、この絵画はワシントンD.C.のナショナル・ギャラリー・オブ・アートに所蔵されており、その美しい姿を鑑賞することができます。

ギャラリー

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脚注

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外部リンク

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