バルコニー (マネの絵画)

エドゥアール・マネ『バルコニー』：近代の孤独と視覚的革新

エドゥアール・マネが1868年から1869年にかけて制作した絵画『バルコニー』は、単なる肖像画にとどまらず、当時の社会情勢や芸術的革新を反映した作品として、今日でも多くの議論を呼んでいます。

制作の背景と着想

マネがルーヴル美術館で見たフランシスコ・デ・ゴヤの『バルコニーのマハたち』から着想を得たとされています。ゴヤの作品を下敷きに、マネは同時代のブルジョワの都市生活を、独自の視点と技法で描き出しました。

描かれた人物たち

『バルコニー』には、マネの身近な人々がモデルとして登場します。前景には3人の人物が配置され、背後の暗がりにもう1人の人物が描かれています。

ベルト・モリゾ: 左側の女性は、画家のベルト・モリゾです。彼女はマネの絵画のモデルを度々務め、後にマネの弟と結婚しました。絵画では、フランス窓の開け放たれたバルコニーの手すりに肘をかけて座る姿が描かれています。
ファニー・クラウス: 右側の女性は、ヴァイオリニストのファニー・クラウスです。彼女はマネの妻の演奏仲間で、手袋をはめようとしている瞬間が捉えられています。
アントワーヌ・ギユメ: 2人の後ろに立つ男性は、マネの友人の画家アントワーヌ・ギユメです。
レオン・コエラ＝レーンホフ: 部屋の奥には、水差しを持つ若い男性が描かれています。彼はマネの息子である可能性が指摘されていますが、真相は謎に包まれています。

発表時の評価と批判

マネは『バルコニー』を、1869年のサロン・ド・[[パリ]]に出品し、入選を果たしました。しかし、その評価は賛否両論でした。ゴヤの作品とは異なり、登場人物たちの視線はバラバラで、相互の交流が感じられません。また、明確な物語性も欠如していました。これらの点が、当時の批評家からの厳しい批判を招きました。

保守的な批評家からは、「不快感を与える作品」「緑色の未熟な果実」といった酷評が浴びせられました。印象派に好意的だった批評家でさえも、その構成の奇妙さを指摘しています。

後世の評価と影響

発表当時は酷評された『バルコニー』ですが、現代においては、近代社会における人間の疎外感や孤独感を鋭く捉えた作品として高く評価されています。登場人物たちがそれぞれ異なる方向を見ている構図は、コミュニケーションの欠如や、精神的な隔たりを象徴していると解釈されています。

ルネ・マグリットは、『バルコニー』の人物を棺桶に置き換えたパロディ作品を制作し、マネの作品に新たな解釈を加えました。ミシェル・フーコーは、その著書の中で、『バルコニー』の構成や色彩、空間表現に着目し、マネがルネサンス以来の絵画の約束事を否定し、キャンバスの物質性を露わにしたと分析しました。

作品の来歴

マネは、1884年に作品を売却。その後、ギュスターヴ・カイユボットが購入し、彼の死後、フランス政府に遺贈されました。リュクサンブール美術館を経て、現在はオルセー美術館に収蔵されています。

『バルコニー』は、発表当時こそ批判を浴びましたが、その革新的な視覚表現と、近代社会に対する深い洞察は、後世の芸術家や思想家に大きな影響を与えました。現在では、マネの代表作の一つとして、世界中の人々から愛されています。

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