バルジェロ美術館

フィレンツェの至宝、バルジェロ美術館：歴史と芸術の融合

イタリア・フィレンツェの中心部に位置するバルジェロ美術館は、単に美術館としてだけでなく、その歴史的背景と建築、そして収蔵品から、フィレンツェの豊かな文化を象徴する存在です。元々はバルジェロ宮殿、あるいはポポロ宮殿と呼ばれ、その名は中世イタリアの治安維持官「バルジェロ」に由来します。この官職は、権力との癒着を防ぐため、他の都市出身者が務めることが多く、現代の警察署長に相当する重要な役割を担っていました。

宮殿としての歴史：ポデスタ宮殿からバルジェロ宮殿へ

バルジェロ宮殿は、当初はフィレンツェの市長に相当するカピターノ・デル・ポポロの役所として建設されました。1261年には、ポデスタ（市の行政長官）の役所となり、「ポデスタ宮殿」と呼ばれ、フィレンツェ最古の公共建築物としてその歴史を刻みます。簡素ながらも堅牢な、銃眼のあるその建築様式は、後のヴェッキオ宮殿建設のモデルにもなりました。

1574年、メディチ家によるポデスタ職の廃止に伴い、バルジェロ宮殿はフィレンツェの警察署長であるバルジェロの詰所となりました。そして、宮殿は刑務所としての機能も併せ持ち、中庭では罪人の処刑が行われていたという、暗い歴史も背負っています。1780年、大公レオポルト2世によって処刑が廃止され、1859年まで警察署として利用された後、レオポルト2世追放後のトスカーナ臨時政府によって、監獄としての役割を終え、国立美術館として新たな道を歩み始めることになります。

1256年に建設された当初は2階建てでしたが、1323年の火災後に3階が追加され、レンガの種類の違いから増築部分を見分けることができます。中庭を囲むように配置され、外側には2階へ続く階段、そして中庭の中央には井戸跡が残るなど、歴史の重みを今に伝える建築構造となっています。

美術館としての魅力：ルネサンス彫刻の宝庫

1865年に美術館として開館したバルジェロ美術館は、14世紀から17世紀にかけて制作されたゴシック様式やルネサンス期の彫刻を豊富に収蔵しています。ミケランジェロの傑作である『バッカス像』、『聖母子像』、『ブルトゥス像』、『ダヴィデ＝アポロン像』をはじめ、ドナテッロの『ダヴィデ像』、そして、ヴィンチェンツォ・ゲミートの『ペスカトーレ』、ジャンボローニャの作品、デッラ・ロッビア家の陶器、ベンヴェヌート・チェッリーニの『コジモ・デ・メディチ胸像』など、錚々たる巨匠たちの作品がここに集結しています。

彫刻だけでなく、陶器（マヨリカ焼き）、織物、タペストリー、象牙細工、銀細工、鎧、古銭など、多岐にわたる美術工芸品も展示されており、ルネサンス期の芸術文化の多様性と豊かさを垣間見ることができます。さらに、フィリッポ・ブルネレスキやロレンツォ・ギベルティが制作したサン・ジョヴァンニ洗礼堂の門扉装飾の競作模型（1401年）も展示され、ルネサンス美術の黎明期を垣間見ることができます。

興味深いのは、ハワイのホノルル・ヘイルの中庭や階段のデザインが、バルジェロ美術館をモデルにしているという点です。建築様式や空間構成におけるバルジェロ美術館の影響力の大きさを示すエピソードといえるでしょう。バルジェロ美術館は、単なる美術館を超え、歴史、建築、芸術が一体となった、フィレンツェの象徴的存在と言えるでしょう。

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