ロレンツォ・ギベルティ

ロレンツォ・ギベルティ（Lorenzo Ghiberti, 1381年頃 - 1455年12月1日）は、初期ルネサンス期におけるフィレンツェを代表する彫刻家であり、金細工師です。特に鋳造技術において卓越した才能を発揮し、その精緻な作品は今日においても高く評価されています。彼は、芸術家としての活動に加え、工房を主宰し、ドナテッロやパオロ・ウッチェロ、ミケロッツォ・ディ・バルトロメオなど、後のルネサンス美術を担う多くの芸術家を育成しました。

生い立ちと初期の活動

ギベルティは、フィレンツェの金細工師バルトロ・ディ・ミケーレの息子として生まれました。幼少期から金細工の技術を学び、その才能を開花させました。しかし、当時のフィレンツェは政治的な不安定さと伝染病の流行に見舞われており、ギベルティは一時的にペーザロへと避難しました。その後、サン・ジョヴァンニ洗礼堂の門扉制作コンペティションが開催されることを知り、フィレンツェに戻ります。

サン・ジョヴァンニ洗礼堂の門扉制作

1401年、ギベルティは、サン・ジョヴァンニ洗礼堂の門扉制作コンペティションに参加しました。このコンペには、フィリッポ・ブルネレスキ、シモーネ・ダ・コッレ、ニッコロ・ダレッツォ、ヤコポ・デッラ・クエルチャなど、当時の著名な芸術家たちが名を連ねていました。課題は「イサクの犠牲」をテーマとした門扉の試作品の制作でした。1402年末から1403年初めにかけて、審査委員会はギベルティの作品を最も優れていると評価し、満場一致で彼を推薦しました。しかし、ブルネレスキの伝記によると、当初はギベルティとブルネレスキの両者を優勝とし、共同で門扉を制作する予定であったものの、ブルネレスキが辞退したと伝えられています。現在、両者の試作品はフィレンツェのバルジェッロ国立美術館に隣り合わせで展示されており、その違いを比較することができます。

1403年11月23日、ギベルティは父親のバルトロとともに、門扉制作の契約を締結しましたが、制作が遅れたため、1407年6月にはギベルティ単独での契約となりました。ギベルティは、この門扉制作の傍ら、他の仕事もこなし、1409年8月3日には金細工師組合に登録、1414年12月1日には、大商人組合からオル・サン・ミケーレ聖堂の壁龕に設置する洗礼者ヨハネ像の制作を依頼され、1416年にこれを完成させました。また、1419年8月には、同教会の聖マタイ像の制作も依頼されましたが、この作品は出来が良くなく、ギベルティ自身が制作したのかドナテッロによるものなのか、はっきりしていません。オル・サン・ミケーレ聖堂では、1425年に羊毛組合から聖ステファノ像の制作も依頼されています。1420年代後半には、コジモ・デ・メディチとロレンツォ・デ・メディチから、サンタ・マリア・デッリ・アンジェリ聖堂の殉教者のブロンズ製棺の制作を依頼され、非常に精巧な作品を完成させました。1423年には、画家組合にも参加しています。

1424年4月19日、ギベルティはサン・ジョヴァンニ洗礼堂の東門の扉を完成させ、設置しました。彼の作品は、それまで設置されていたアンドレア・ピサーノの作品を凌駕するものとして評価され、大商人組合は、1425年1月2日に、さらに壮麗な門扉の制作をギベルティに依頼しました。この二度目の門扉制作にあたり、ギベルティは、レオナルド・ブルーニらの意見を参考にしながら、1428年から制作を開始し、1452年6月に完成させました。この門扉の壮麗さに感銘を受けた大商人組合は、設置場所を本来の北側から東側へと変更し、ギベルティが最初に制作した門扉を北側へ移動させました。また、アンドレア・ピサーノの門扉の枠の制作もギベルティに依頼しましたが、これはギベルティの死後、息子のヴィットリオ・ギベルティによって1463年に完成しました。

その他の活動と晩年

ギベルティは、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂のクーポラ建設にも参加し、ブルネレスキやバッティスタ・ダントニオとともに建設にあたりました。しかし、クーポラの下部構造であるカテーナの建設で失敗し、巨額の損失を出したため、1432年には工事監督の任から外れたと考えられています。ただし、大聖堂の建設には引き続き関わっており、1432年3月18日には、後陣内部の聖ザノービの棺の制作を依頼されています（ただし、この契約はギベルティの不履行で破棄され、1439年には期限付きでの再契約が結ばれています）。

晩年には、自身の芸術観をまとめた著作『コメンターリ』を執筆しました。ギベルティは1455年に亡くなり、遺体はサンタ・クローチェ聖堂に埋葬されました。

主要作品

1402年製作 『イサクの犠牲』（バルジェッロ国立美術館、フィレンツェ）
1416年製作 『洗礼者ヨハネ』（オル・サン・ミケーレ聖堂、フィレンツェ）
1422年製作 『聖マタイ』（オル・サン・ミケーレ聖堂、フィレンツェ）
1424年製作 『キリストの生涯』（サン・ジョヴァンニ洗礼堂、フィレンツェ）
1427年製作　『ドミニコ会管長リオナルド・ダーティの墓碑』（サンタ・マリア・ノヴェッラ聖堂、フィレンツェ）
1427年？製作　『プロトゥス・ヒュアキントス・ネメギウスの墓碑』（バルジェッロ国立美術館所蔵、フィレンツェ）
1429年製作 『聖ステファノ』（オル・サン・ミケーレ聖堂、フィレンツェ）
1440年製作　『聖ザノービ（ザノビウス）の墓碑』（サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂、フィレンツェ）
1434年から1442年製作 『菜園での祈り』『キリスト奉献』『聖母昇天』ステンドグラス
1447年以降の著作 『コメンターリ（Commentari）』

脚注

この作品では、主に以下の文献を参考にしました。

[参考文献1]
[参考文献2]

関連項目

ルネサンス
サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂
ドナテッロ
シチリア島

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