バルト語派

バルト語派：インド・ヨーロッパ[[語族]]の謎めいた言語群

バルト語派は、インド・ヨーロッパ[[語族]]バルト・スラヴ語派に属する言語群です。バルト海東南岸周辺に分布し、現在話されている言語としてはリトアニア語とラトビア語が代表的です。かつてこの地域で話されていたが、現在では死語となっている古代プロイセン語も含まれます。

バルト語派は、現存するインド・ヨーロッパ[[語族]]の中でもっとも古い特徴を色濃く残している言語群として知られています。その言語構造や語彙は、他のインド・ヨーロッパ[[語族]]の言語との比較研究において、重要な手がかりを提供しています。

特に、バルト語派とスラブ語派との関係は、言語学者の間で長く議論されてきました。かつては、両語派が共通の祖語から分岐したと考えられていましたが、最近の研究では、バルト語派内部での分化がスラブ共通基語成立以前に起こっていた可能性も示唆されています。この複雑な関係性解明は、インド・ヨーロッパ[[語族]]全体の進化を理解する上で不可欠です。

バルト語派の分類

バルト語派は、大きく分けて西バルト語群と東バルト語群に分類されます。

西バルト語群は、現在ではすべて死語となっています。プロシア語、ナドルヴィア語、ガリンディア語、スカロヴィア語、そしてスドヴィア語（またはヤトヴィンギア語）が含まれます。これらの言語に関する情報は、断片的な文献や地名、人名などから推測されるものがほとんどです。

東バルト語群には、現代語として使用されているリトアニア語とラトビア語が含まれます。さらに、リトアニア語の方言とされるサモギティア語、ラトビア語の方言とされるラトガリア語、そして死語となった古クロニア語、セロニア語、セミガリア語などが含まれます。

バルト語派の歴史：文字記録の遅れと言語の消滅

バルト語派の言語は、他のインド・ヨーロッパ[[語族]]の言語に比べて、文字記録が非常に遅れました。その理由としては、バルト海沿岸の民族がキリスト教化に長く抵抗したため、文字の導入が遅れたことが挙げられます。また、言語的に比較的孤立した地域に分布していたことも、文字記録の遅れに影響を与えたと考えられています。

特にプロシア語は、プロイセンへのドイツ人の大量流入と、それに伴う同化政策によって17世紀末には消滅しました。また、ポーランド分割後、バルト海沿岸地域の大部分がロシア帝国の支配下に入ったことにより、ロシア化政策によってバルト諸語の使用は制限され、言語の衰退を招きました。

バルト語派の地理的分布：歴史的広がりと縮小

現代では、バルト語話者は主にリトアニアとラトビアに集中していますが、アメリカ、カナダ、オーストラリア、そして旧ソ連諸国にも移民社会が存在します。しかし、歴史的には、バルト語は現在よりはるかに広い地域で話されていました。西はヴィスワ川河口、東はドニエプル川、そして南はキーウ付近まで及んでいたと考えられています。これは、水名などの地名にバルト語の特徴が強く残っていることから推測されます。

東スラブ人とバルト人の遺伝的な関係性についても、近年研究が進められています。ロシアの遺伝学者オレグ・バラノフスキーの研究は、東スラブ人の遺伝子構造に、バルト語話者からの影響が強く見られる可能性を示唆しています。

一方で、エストニア語は地政学的にはバルト三国に含まれるものの、ウラル語族に属し、バルト語派とは異なる言語系統に属します。

比較言語学：バルト語派と他のインド・ヨーロッパ[[語族]]言語との関係

バルト語派は、インド・ヨーロッパ[[語族]]の中でも古風な特徴を多く残しているため、言語学者にとって非常に興味深い対象です。しかし、バルト語派と他のインド・ヨーロッパ[[語族]]言語との正確な系統関係を立証することは、容易ではありません。

多くの絶滅したバルト諸語は、文字記録がほとんど残されておらず、その存在は古代の歴史家の記録や地名、人名などから推測するしかありません。現存する言語を含め、バルト語群の言語が独立した言語として存在するようになった時期は比較的遅く、書記言語として成立したのも遅かったため、その歴史は不明瞭な部分が多く残されています。

バルト語派とスラブ語派との関係については、いくつかの仮説が提唱されています。従来は、共通の祖語（バルト・スラブ祖語）から分岐したと考えられていましたが、近年の研究では、統一されたバルト祖語の段階を経ずに、スラブ語、東バルト語、西バルト語の3グループに分岐したという説が有力となっています。

さらに、バルト語がバルト・スラブ祖語の中間段階を経ずに、直接インド・ヨーロッパ祖語から派生したとする説も存在します。この説では、バルト語とスラブ語の類似点は、共通の祖先によるものよりも、長期間にわたる言語接触の結果であると主張しています。

トラキア仮説：バルト語派と古代言語との関連性

バルト語派と絶滅したトラキア語、ダキア語との関係を主張する仮説も存在します。リトアニアの科学者ヨナス・バサナヴィチウスは、バルト語とトラキア語の間に多くの共通点を見出し、両者の系統関係を主張しました。しかし、この説は全ての言語学者によって支持されているわけではありません。ブルガリアの言語学者イワン・ドゥリダノフは、トラキア語とバルト語（またはバルト・スラブ祖語）との関係を支持する一方で、フリギア語との関連性は否定しています。これらの仮説は、比較言語学の手法を用いた更なる研究が必要です。

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