バルーチスターン解放軍

バルーチスターン解放軍（BLA）

バルーチスターン解放軍（Balochi Liberation Army, BLA）は、パキスタン南西部に位置するバルーチスターン地域を主な活動拠点とする武装組織です。この組織は、同地域に居住するバローチ人のための分離独立国家を樹立することを目標として掲げ、パキスタン政府に対する武装闘争を展開しています。欧州連合（EU）およびアメリカ合衆国からはテロ組織として指定されており、国際社会においてその活動は厳しく批判されています。日本では、報道においてバルチスタン解放軍やバルチ解放軍といった名称で言及されることもあります。

組織の歴史と背景

BLAの起源は、1980年代のアフガニスタン紛争期に遡るとの見方があります。当時、アフガンにおけるムジャヒディンを支援していたパキスタン政府に対抗するため、ソビエト連邦や当時のアフガニスタン政府、さらにはインドからの支援を受けていた可能性が指摘されています。その後、2000年代に入ってから、主にバルーチスターン州を中心としたこの地域からのパキスタンからの分離独立をより明確な目的として、組織が再編され、活動を本格化させたと見られています。バルーチスターン地域では、BLA以外にもバルチスタン解放戦線（BLF）やバルチスタン共和国軍（BRA）といった複数の武装勢力が活動しており、バルーチ人の権利拡大や分離独立を求める動きは、これらの組織が複雑に関係しながら進行しています。2018年には、BLA、BLF、BRAが合同でバルーチ・ラージ・アージョイ・サンガル（BRAS）と呼ばれる統一戦線を結成したとも報じられています。

主な活動と事件

BLAは、パキスタン政府の治安部隊やインフラ施設、さらには同地域に進出する外国資本、特に中国関連の権益や人員を標的とした攻撃を繰り返しています。その活動は、破壊活動、襲撃、爆破など多岐にわたります。

近年発生した主な事件としては、以下のようなものが挙げられます。

2017年 4月21日: バルーチスターン州の州都クエッタで、BLAを含む武装勢力の戦闘員約500名が政府当局に投降し、武器を引き渡してパキスタンへの忠誠を誓う式典が行われました。これは政府による融和政策の一環と見られています。
2018年 11月23日: パキスタンの最大都市カラチにある中華人民共和国総領事館が武装集団による襲撃を受けました。この事件ではパキスタン人警察官2名と、巻き添えとなった市民2名の合わせて4名が犠牲となりました。BLAが犯行声明を出し、自組織の関与を主張しました。
2019年 5月11日: バルーチスターン州の港湾都市グワダルにある高級ホテルが武装集団に襲撃されました。この攻撃により、ホテル従業員4名と治安部隊の兵士1名が死亡しました。BLAは犯行声明の中で、「中国及びその他の外国投資者」を標的とした攻撃であると主張しました。
2022年 4月26日: カラチ大学構内にある孔子学院で大規模な爆発が発生し、中国人の院長や教員を含む4名が死亡しました。この事件についても、BLAがソーシャルメディアを通じて犯行声明を出しています。
2024年 10月7日: パキスタン国内で、中国人が搭乗していた電力会社の車列が襲撃される事件が発生しました。この攻撃により、中国人2名が死亡し、10名以上が負傷しました。バルチ解放軍を名乗る組織が、中国人を標的とした声明を発表し、犯行への関与を示唆しました。
2024年 11月9日: バルーチスターン州クエッタの鉄道駅で爆発テロが発生し、少なくとも26人が死亡、50人以上が負傷するという大きな被害が出ました。この事件についても、BLAが犯行声明を発表しています。

これらの事件からもわかるように、BLAはパキスタン政府に対する抵抗活動に加え、バルーチスターンにおける中国の経済開発プロジェクトに強く反発し、中国関連の標的を繰り返し攻撃しています。また、駅のような公共の場所を標的とした攻撃は、多数の非武装市民を巻き込むものであり、その活動の過激さを示しています。

国際社会によるテロ組織指定

BLAの活動の危険性や、市民を巻き込む攻撃などを受け、国際社会はこれをテロ組織と見なしています。特に、2019年 7月2日にはアメリカ合衆国国務省によって正式にテロ組織に認定されました。これは、BLAが国際的な安全保障に対する脅威であるとの認識に基づくものです。

まとめ

バルーチスターン解放軍（BLA）は、パキスタンの不安定要因の一つであり、バルーチスターン地域の分離独立を求めて武装闘争を続ける組織です。その活動はパキスタン政府との衝突に留まらず、外国資本、特に中国の権益を標的とすることで国際的な注目を集めています。テロ組織に指定されているBLAの今後の動向は、パキスタン国内の治安のみならず、同地域における地政学的バランスにも影響を与える可能性があります。

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