バロン (聖獣)

バロン（Barong） - バリ島の聖なる獅子

バロンは、インドネシアのバリ島において重要な役割を果たす聖なる獅子の姿を持つ獣です。通称「バナスパティ・ラジャ」としても知られ、森の王としての地位を確立しています。この伝説的な生き物は、バリ・ヒンドゥー教における善の力を象徴し、悪の化身である魔女ランダに対抗する存在として知られています。特にバロンは何度でも蘇る存在とされ、その力は様々な災害から村を守るものと信じられています。村の寺院に安置されるバロンは、日々の供物や祈りの対象となり、村人にとって大切な存在です。

バロンの伝説と役割

バロンは、自然の精霊である「バナス・パティ」の具現化とされ、善悪の戦いの象徴でもあります。彼は悪の化身とされるランダとの永遠の対立にあり、その戦いは文化や信仰に深く根ざしています。バロンの姿は、全身に小さな鏡がちりばめられており、その神秘的な外観は人々を魅了してやみません。この存在は、村の守護者として崇拝され、地域の祭りや儀式に欠かせないものとなっています。

チャロナラン劇とバロンダンス

バロンは“チャロナラン劇”として知られる舞台劇においても重要な役割を果たします。ガルンガンといったバリの祭礼日には、バロンダンスが行われ、悪霊の追放や疫病からの解放を目的とします。この独自の舞台芸術は、村人たちがバロンを踊り好きな存在だと信じることから生まれました。

バロンの造形は、唐代の中国から伝わった獅子を基にしており、村によって様々な動物に擬えて表現されますが、最も尊いとされる「バロン・クトット」は実在しない神聖な動物を象徴しています。彼の頭部は、白い毛や人毛で作られた顎髭、金の装飾が施された仮面で飾られており、威厳に満ちています。

公演の変遷と観光への適応

1930年代以降、バロンダンスは外国人観光客向けに公演されるようになりましたが、初期の形態は長時間にわたる儀式であり、観光客には受け入れがたいものでした。また、独特のトランス状態に陥る踊り手たちの行動が不快に思われることもありました。こうした状況を鑑み、踊り手のイ・マデ・クルドゥクが新たな筋書きを考案し、現在の観光客向けの形式が形成されていきました。

現在のバロンダンスは、ストーリーの展開が簡潔になり、観客を楽しませる工夫が凝らされています。村人たちは今なお、バロンへの畏敬の念を忘れず、伝統的な儀礼を行い続けています。公演のクオリティも政府や観光ガイドによって維持され、バロンの文化的な重要性は今なお息づいています。

参考文献

アネット・サンガー、石森秀三（編）、松田みさ(訳)、1991、「幸いか、災いか？：バリ島のバロン・ダンスと観光」、『観光と音楽』、東京書籍〈民族音楽叢書〉（原著1988年） pp. 207-230

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