バンドリン

バンドリンとは：南米の心揺らす複弦楽器

バンドリン（Bandolim）は、主にブラジル音楽、特に「ショーロ」において重要な役割を担う弦楽器です。スペインやポルトガルにその源流を持つとされており、ギターの祖先にあたるヴィエラと呼ばれる楽器から発展したと考えられています。この楽器の最大の特徴は、4つのコースにそれぞれ2本ずつの弦が張られた、合計8本の複弦構造を持つ点にあります。各コースの弦は通常、同じ音程に調弦されるユニゾン弦として使用され、これにより独特の豊かで倍音に富んだ響きを生み出します。

起源と歴史的背景

バンドリンのルーツは、15世紀から16世紀にかけてイベリア半島で隆盛を誇ったヴィエラにあるとされます。ヴィエラはリュートのような形状をしていますが、背面が平ら（フラットバック）であった点が後のギターやバンドリンへと繋がる要素と見られています。大航海時代を経て、これらのイベリア半島の楽器は世界各地、特に南米へと伝えられました。ブラジルに持ち込まれたヴィエラ系の楽器が、現地の音楽文化と融合し、独自の進化を遂げた結果としてバンドリンが誕生したと考えられています。初期のバンドリンはヴィエラに近い構造を持っていたと推測されますが、時代と共に改良が加えられ、現在の8弦フラットバックという形に落ち着いたとされています。

楽器の構造と音色

バンドリンのボディ背面は平らなフラットバック構造を採用しています。これは、同じくピックで演奏されるリュート系の楽器であるマンドリンが、丸みを帯びたラウンドバックを持つこととの明確な違いです。フラットバック構造は、一般的にサウンドの立ち上がりが速く、クリアな響きを持つ傾向があります。一方、マンドリンのラウンドバックはよりリバーブ感のある、深く響く音色とされます。バンドリンの4コース8弦は、ユニゾン調弦により音に厚みとサスティン（音の伸び）をもたらし、明るく華やかながらも、複弦特有の奥行きのある音色を生み出します。ネックにはフレットが打たれており、正確な音程での演奏が可能です。

マンドリンとの比較と南米での呼称

バンドリンとマンドリンは、どちらもピックを用いて演奏される複弦楽器であり、その演奏スタイルには多くの共通点が見られます。特に、同じ音を連続して非常に速く弾く「トレモロ奏法」は、両方の楽器にとって表現の核となる奏法の一つです。しかし、前述の通り、最も視覚的に分かりやすい違いはボディの形状です。マンドリンの古典的なスタイルはラウンドバックであるのに対し、バンドリンはフラットバックです。また、弦のコース数や調弦も地域や種類によって多少の違いはありますが、一般的なバンドリンは4コース8弦、マンドリンは4コース8弦または4コース4弦などが主流です。

興味深い点として、南米の一部の地域では、フラットバックの「バンドリン」を指して単に「マンドリン」と呼ぶことが一般的であるという文化的背景があります。これは、楽器が伝播・定着する過程で名称が混同されたり、地域独自の分類が生まれたりした結果と考えられます。そのため、南米で「マンドリン」という単語を聞いた場合、それが必ずしもラウンドバックのマンドリンを指すとは限らず、バンドリンである可能性も高いことに注意が必要です。

音楽におけるバンドリンの役割

バンドリンは、ブラジルが生んだ豊かな器楽音楽であるショーロにおいて、欠かせない楽器です。速いパッセージや複雑なメロディを奏でるのに適しており、ショーロアンサンブルの中では、時に歌い上げるような主旋律を、時に技巧的なインプロヴィゼーションを担います。そのクリアで機敏な音色は、ショーロ特有のリズミカルで軽快な雰囲気に非常によく合います。ショーロ以外にも、サンバやボサノヴァといった他のブラジル音楽のジャンルや、現代的なMPB（ブラジル大衆音楽）などでも使用され、その活躍の場を広げています。

著名な演奏家

バンドリンの歴史を語る上で、外すことのできない伝説的な演奏家がジャコー・ド・バンドリン（Jacob do Bandolim, 1918-1969）です。彼はバンドリンの演奏技術を極めただけでなく、数多くのショーロの名曲を作曲・演奏し、このジャンルの発展に絶大な貢献をしました。彼の技巧的かつ表情豊かな演奏は、後世の多くの演奏家にとって手本となり、バンドリンの可能性を世界に示しました。現在も多くの優れたバンドリン奏者が活躍し、バンドリンの音楽文化は受け継がれ、進化し続けています。

バンドリンは、その独特な構造と音色によって、ブラジル音楽の魅力を伝える重要な楽器の一つであり、多様な音楽表現の可能性を秘めています。

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