ショーロ

ショーロ（Choro）

ショーロは、19世紀後半にブラジルのリオ・デ・ジャネイロで誕生した、ポピュラー音楽における重要なジャンルの一つです。その名前は、ポルトガル語で「泣く」を意味する「chorar」という言葉に由来するとされています。この音楽スタイルは、しばしば「ブラジルのジャズ」と表現されることがありますが、即興演奏を重視する点においては、ジャズよりも歴史が古いという特徴を持ちます。後の時代に生まれたサンバやボサノヴァといった代表的なブラジル音楽ジャンルの形成にも、ショーロは多大な影響を与えました。

歴史

ショーロがスタイルとして確立され始めたのは19世紀後半のことです。初期の代表的な編成としては、ダ・シルバ・カラドが演奏したように、フルートを主旋律とし、2本のギターとカヴァキーニョ（ウクレレと起源を同じくする小型の4弦楽器）が伴奏を担う形が見られました。時が経つにつれて、パンデイロ（タンバリンに似た打楽器）やバンドリンが加わり、やがて管楽器（フルート、クラリネット、サクソフォーンなど）にバンドリン、カヴァキーニョ、ギター、パンデイロを加えた編成がショーロの最も典型的で基本的な形として完成しました。この編成は特に「ヘジオナウ（Regional）」と呼ばれ、かつてラジオ放送において歌手の伴奏などで広く用いられました。もちろん、これら以外にもトロンボーン、ヴァイオリン、アコーディオン、ピアノなど、様々な楽器がショーロの演奏に取り入れられています。

音楽構造

ショーロの楽曲は、一般的に三部形式をとることが多いです。この構造は、ショーロのルーツの一つとされるヨーロッパのダンス音楽（例えばポルカなど）に由来しています。三つの部分をそれぞれA、B、Cとすると、最もよく見られる繰り返しパターンは「AABBACCA」という形です。また、各セクション間の関係調にも特徴があり、A部とB部の間は属調あるいは下属調、A部とC部の間は平行調であることが一般的ですが、多様な楽曲が存在するため、これに限らず様々な転調パターンが見られます。

著名な作曲家

ショーロの発展に貢献した作曲家は数多く存在します。

ピシンギーニャ（Pixinguinha）: ブラジルポピュラー音楽の父と称される彼は、ショーロの歴史において最も重要な人物の一人です。彼の作曲した「カリニョーゾ」は、ショーロを代表する名曲として世界中で親しまれています。彼の誕生日である4月23日は、2001年に「ショーロの日」として制定されました。
エイトル・ヴィラ＝ロボス（Heitor Villa-Lobos）: クラシック音楽の世界でも著名なヴィラ＝ロボスも、ショーロに深く関わりました。彼は『ショーロ集（Choros）』と題された一連の作品を発表しており、ピアノやギターなど、多様な楽器編成による楽曲が含まれています。
ジャコー・ド・バンドリン（Jacob do Bandolim）: 近代ショーロのスタイルを確立した功労者です。また、ショーロの名門アンサンブルである「エポカ・ジ・オウロ（黄金時代）」の創設者としても知られています。
パウリーニョ・ダ・ヴィオラ（Paulinho da Viola）: 「サンバの貴公子」と呼ばれる彼自身は主にサンバのアーティストですが、彼の父はショーロのギタリストであり、エポカ・ジ・オウロのメンバーでもあったセザル・ファリアです。パウリーニョ・ダ・ヴィオラは1970年代にエポカ・ジ・オウロと共にショーロのリバイバル運動を牽引し、一時期衰退しかけていたショーロが再び注目を集めるきっかけを作りました。
アベル・フェヘイラ（Abel Ferreira）
エルネスト・ナザレー（Ernesto Nazareth）
ヴァルジール・アゼベード（Waldir Azevedo）

代表的な楽曲

ショーロには時代を超えて愛される数多くの名曲が存在します。

チコ・チコ・ノ・フバー（Tico Tico No Fuba）: ゼキーニャ・ジ・アヴレウ作曲。この曲は、1940年代にブラジル人歌手カルメン・ミランダが映画『コパカバーナ』で歌い、世界的なヒットとなりました。
ノイチス・カリオカス（Noites Cariocas）: ジャコー・ド・バンドリン作曲。「カリオカの夜」という意味のタイトルを持つこの曲も、ショーロの定番曲として広く知られています。
カリニョーゾ（Carinhoso）: ピシンギーニャ作曲。「やさしい調べ」という意味。ブラジル国内だけでなく、アントニオ・カルロス・ジョビンやヨーヨー・マなど、様々な国のアーティストによってカバーされています。
* 1×0（Um a Zero）: ピシンギーニャ作曲。1919年にサッカーのブラジル代表がウルグアイに1対0で勝利したことを記念して作られたというエピソードを持ちます。

これらの要素が組み合わさることで、ショーロはその独特の魅力と豊かな音楽性を保ち続けています。

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