バンプ・アヘッド

『バンプ・アヘッド』（Bump Ahead）は、アメリカのハードロックバンド、MR. BIGが1993年に発表した3枚目のスタジオ・アルバムです。前作『Lean Into It』から約2年半ぶりのリリースとなりました。

「To Be With You」の大ヒットにより、MR. BIGは世界的な人気を獲得しましたが、その反面、レコード会社からは大きなプレッシャーを受けることになりました。完成したアルバムを聴いた会社側から、「『To Be With You』のような強力なバラードがない」と指摘され、バラード曲のデモ制作を余儀なくされたというエピソードがあります。音楽雑誌のインタビューも差し替えられるなど、異例の事態となりました。

最終的に、キャット・スティーヴンスの「ワイルド・ワールド」のカバーを追加収録するなど、収録曲を一部差し替えて、ようやくリリースにこぎつけました。しかし、アルバム自体の完成度は高く、シンセサイザーやストリングスを大胆に導入した楽曲もあり、MR. BIGの音楽性の幅広さを示す作品となっています。

アルバム・タイトルは、前作同様にパット・トーピーの発案によるもの。サンフランシスコの図書館で、マンホールの穴から男性が顔を出している写真を見つけ、それを見たビリー・シーンが「bump ahead（この先、注意！）」と発したことがきっかけです。この言葉には、「気をつけろ！」という意味と「もう一歩前進しろ」というダブル・ミーニングが込められています。

制作段階で、ポール・ギルバートはブライアン・アダムスとのツアー前に「What’s It Gonna Be」「Mr. Gone」、そしてアウトテイクとなった「Stand By Me」のデモを録り終えていたと語っています。最終的に追加収録された「Wild World」以外にも、「Hold Your Head Up」や「Some Kind Of Wonderful」、SLEEZE BEEZのナンバーなどが候補に挙がっていました。また、差し替え前のインタビューで語られていたオリジナル曲「Stand By Me」「Next Time Around」は、残念ながら削除されています。

このアルバム制作時のポールの苦悩は、後にライブ・アルバム「JAPANDEMONIUM」に収録された新曲「Seven Impossible Days」で歌われています。レコード会社からのやり直し命令にショックを受けたポールを、エリック・マーティンが慰めたものの、ポールにとっては心に深く残る出来事だったようです。

ポールは差し替え前のインタビューで、「Stand By Me」について、初めて12弦ギターを購入した際に思いついたリフを基に書いた曲だと語っています。曲の原型は前作『LEAN INTO IT』の時点で出来上がっており、他のメンバーにも聞かせましたが、その際は収録が見送られ、今回パットと2人で改めてアレンジを施して完成させました。

もう1曲のアウトテイク「Next Time Around」は、バンド結成当初から存在していた曲で、バンドとして初めてのギグやサウンドチェックで演奏されたとポールは記憶しています。コーラスを重視した曲ですが、当時はまだバックヴォーカルを取りながら楽器を演奏することに慣れていなかったため、収録を見送っていました。

デビュー20周年の2009年には、再結成＆ジャパン・ツアー記念エディションとして、リマスタリングとボーナス・トラックを追加収録したものが日本で再発売されました。

『バンプ・アヘッド』は、MR. BIGの音楽的な進化と、バンドを取り巻く状況の変化が反映された、興味深い作品と言えるでしょう。

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