バーティツとは？意味をやさしく解説 - サードペディア百科事典

バーティツとは

バーティツは、1898年から1902年にかけて、イギリスでエドワード・ウィリアム・バートン＝ライトによって創始された武術です。ボクシング、柔術、棒術格闘、そしてフランス式キックボクシング（サバット）など、様々な格闘技の要素を組み合わせた、実戦的な護身術として発展しました。この武術は、単なる格闘技術だけでなく、総合的な身体鍛錬のシステムも包含していました。

1903年には、推理小説シャーロック・ホームズシリーズの著者、アーサー・コナン・ドイルが「バリツ」という名前で言及したことで、広く知られるようになりました。20世紀には一時衰退しましたが、2002年以降、バーティツは再評価され、復活を遂げています。

歴史

創始

1898年、日本での滞在経験を持つバートン＝ライトは、帰国後「ニュー・アート・オブ・セルフディフェンス（自己防衛の新たな技芸）」を創設しました。彼は、様々な格闘技の優れた要素を統合したものを「バーティツ」と名付けました。バートン＝ライトは、ボクシング、レスリング、フェンシング、サバット、そしてスティレットの使用を学び、それらの技術を自身の格闘スタイルに取り入れました。バーティツという名前は、彼の姓「バートン」と「柔術」を組み合わせた造語です。

技術体系

バーティツは、主に寺島勘一郎の神伝不動流柔術と講道館柔道から技術を取り入れています。また、英国のボクシング、スイスのシュヴィンゲン、フランスのサバット、そしてピエール・ヴィニーが創設したステッキ術「ラ・カン」の要素も組み込まれています。これらの技術を統合し、総合的な護身術システムとして確立しました。

バーティツ・クラブ

バートン＝ライトは、1899年から1902年にかけて、雑誌記事やデモンストレーションを通じてバーティツを宣伝しました。彼は「バーティツ・アームズ・アンド・フィジカル・カルチャー」という学校を設立し、それは「バーティツ・クラブ」として知られるようになりました。このクラブには、谷カネオ、山本セイゾウ、谷幸雄といった日本人柔術家や、スイス人のピエール・ヴィニーらが講師として参加しました。

バーティツ・クラブは、裕福なロンドン市民を対象とした護身術の指導だけでなく、デモンストレーションや他の格闘家との試合も行いました。また、フェンシングの古書収集グループの本部としても機能し、歴史的なフェンシング技術の検証や指導も行っていました。クラブの会員には、コズモ・ダフ＝ゴードンやF・C・ライング大尉など、著名な人物も含まれていました。

カリキュラムと護身術

バーティツのカリキュラムは、打撃、組技、棒術など、様々な間合いに対応した技術で構成されていました。特に、棒術はピエール・ヴィニーの技術が重視され、柔術は組技の中心となっていました。サバットとボクシングは、これらの間合いを繋ぐ役割を果たし、バランスの取れた護身術を実現していました。

バーティツの護身術は、攻撃的な防御を特徴とし、ボクシングやサバットの技術で相手の攻撃を防ぎ、柔術で反撃するという流れが基本でした。バートン＝ライトは、独自の教育システムを設け、生徒はまず個人指導を受け、その後グループ授業に参加するという形式を採用していました。

衰退と復活

衰退の理由

1902年半ばまでに、バーティツ・クラブは閉鎖されました。閉鎖の理由については諸説ありますが、高額な入会金と授業料が原因であるという説が有力です。また、バートン＝ライトは裕福なロンドン市民の関心を過大評価していた可能性も指摘されています。

クラブ閉鎖後、谷幸雄やピエール・ヴィニーらは、ロンドンでそれぞれの護身術ジムを開設しました。谷幸雄はプロレスラーとしても活躍し、柔術の普及に貢献しました。しかし、バーティツ自体はバートン＝ライトの存命中には復興することはありませんでした。

シャーロック・ホームズと「バリツ」

バーティツが完全に忘れ去られるのを防いだのは、[アーサー・コナン・ドイル]]の推理小説シャーロック・ホームズシリーズでした。1903年、ドイルは「空き家の冒険」で、ホームズが宿敵モリアーティ教授を倒すのに「バリツ]」を使ったと記述しました。この「[[バリツ」は、バーティツが誤って伝えられたものでしたが、多くの読者に強い印象を与えました。

この「バリツ」という言葉は、『空き家の冒険』以外の文献にはほとんど見られず、1901年のロンドン・タイムズの記事でバーティツのデモンストレーションを報じた際、綴りを誤って「baritsu」と記載したものが元になったと考えられています。この誤記が、ドイルの小説を通して広まったと考えられています。

現代の復活

2001年、リチャード・ボーウェンによって、バートン＝ライトの雑誌記事が再発見され、バーティツへの関心が再び高まりました。2002年には、バーティツ愛好家の国際協会である「バーティツ・ソサエティ」が設立され、バーティツの研究と訓練が本格的に始まりました。

現代のバーティツは、「正統バーティツ」と「ネオ・バーティツ」の2つの分野に分かれています。「正統バーティツ」は、バートン＝ライトらが記述した技術を忠実に再現しようとするもので、「ネオ・バーティツ」は、その原理を現代的に解釈し、独自に発展させたものです。バーティツの復活は、武道史の研究や、ビクトリア朝時代の社会史への関心とも結びついています。

遺産

バートン＝ライトの先見性

バートン＝ライトは、日本の武道をヨーロッパに紹介した先駆者であり、様々な格闘技の要素を組み合わせて護身術を創り出した先見の明を持つ人物でした。彼のバーティツは、70年後のブルース・リーのジークンドーにも通じる実用主義的な折衷主義の思想を持っていました。

影響

バーティツは、後の護身術にも影響を与え、パーシー・ロングハーストやウィリアム・ガラッドなど、ヨーロッパの護身術専門家がバーティツの思想を受け継ぎました。また、1920年代には、ブラジルの体育教師がカポエイラ、柔術、ボクシングなどを組み合わせた「護身術」を発表しています。

MMAの先駆け

バートン＝ライトは、異種格闘技戦（MMA）の先駆けとなるイベントを企画し、谷幸雄らが活躍しました。バーティツ・クラブは、女性向けの護身術クラスを設けた最初の学校の一つであり、女性の護身術とフェミニズムの政治哲学を結びつけました。

大衆文化におけるバーティツ

コナン・ドイルの「バリツ」は、多くの小説や映画に登場し、ドック・サヴェジやThe Shadowといった架空のヒーローがその極意を極めたとされています。近年では、アニメやゲームにもバーティツを基にしたキャラクターや技が登場しており、幅広い層に認知されるようになりました。映画「シャーロック・ホームズ」では、ネオバーティツを取り入れたアクションシーンが話題となりました。

バーティツの今後

バーティツは、武道としての側面だけでなく、歴史や文化的な側面からも注目されています。バーティツ・ソサエティの活動を通じて、その技術は世界中で広まりつつあり、今後ますます発展していくことが期待されます。

バートン＝ライトの著述

バートン＝ライトは、以下の雑誌に記事を掲載しました。
* Pearson's Magazine (1899-1901)

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