パガニーニによる大練習曲

フランツ・リストが、ニコロ・パガニーニの『24の奇想曲』と『ヴァイオリン協奏曲第2番』を基に作曲（編曲）したピアノ作品。

作曲: 1838年
改訂: 1851年
サール番号: 初版 S.140、改訂版 S.141
献呈: クララ・ヴィーク嬢

概要

パガニーニの超絶技巧をピアノで再現することを目指した作品で、初版は極めて高度な技術を要求されることで知られています。13度の和音や、高速パッセージでの連続する10度の和音など、演奏者の手の大きさを考慮したかのような難所が多数存在しました。しかし、1851年の改訂版では、これらの難所の多くが削除され、より演奏しやすい形に改められました。

一般的には、初版を『パガニーニによる超絶技巧練習曲』、改訂版を『パガニーニによる大練習曲』と区別して呼ばれます（単に『パガニーニ練習曲』と呼ばれることもあります）。

第3番『ラ・カンパネッラ』は、特に人気が高く、単独で演奏される機会も多く、リストの作品の中でも最も有名なものの一つです。

楽曲構成

S.140 パガニーニによる超絶技巧練習曲（1838年版）

1. 第1番ト短調 Andante - Non troppo Lento（原曲：第5・6番）
2. 第1a番（第1番の別稿。シューマンの『パガニーニのカプリスによる練習曲』Op.10 第2曲の再編曲）
3. 第2番変ホ長調 Andante - Andantino, capricciosamente（原曲：第17番）
4. 第3番変イ短調 Allegro moderato - Tempo giusto（原曲：『ヴァイオリン協奏曲第2番』第3楽章、『ヴァイオリン協奏曲第1番』第3楽章）
5. 第4番ホ長調 Andante quasi Allegretto（原曲：第1番）
6. 第4a番第4番同上（第4番の第2稿）
7. 第5番ホ長調 Allegretto（原曲：第9番）
8. 第5a番（第5番の別稿）
9. 第6番イ短調 Quasi Presto (a Capriccio)（原曲：第24番）

S.141 パガニーニによる大練習曲（1851年版）

原曲は『ラ・カンパネッラ』以外は初版と共通。

1. 第1番ト短調 Andante - Non troppo Lento（トレモロ）
2. 第2番変ホ長調 Andante - Andante capriccioso（オクターブ）
3. 第3番嬰ト短調 Allegretto 「ラ・カンパネッラ」 ※初版ではヴァイオリン協奏曲から2曲を基にしていたがこちらは第2番のみに基づく。
4. 第4番ホ長調 Vivo（アルペジオ）
5. 第5番ホ長調 Allegretto 「狩り」
6. 第6番イ短調 Quasi Presto 「主題と変奏」

各曲の特徴

第1番 (トレモロ): 原曲は第5番と第6番。左手の練習を目的として、主題が1オクターブ低い音域で開始されます。初版では、パガニーニを彷彿とさせる広い音域のアルペジオが多用されていましたが、改訂版ではトレモロなどのピアノ的な音型に変更されました。
第2番 (オクターブ): 原曲は第17番。オクターブの練習曲で、原曲に忠実な進行に和音や対旋律が追加されています。初版では、高速パッセージが片手による三度進行で指定されていましたが、演奏困難なため両手で演奏されることが多く、改訂版では単音に変更されました。
第3番 (ラ・カンパネッラ): 原曲はヴァイオリン協奏曲第2番。6曲の中で唯一、原曲から主題のみを取った自由な編曲となっています。
第4番 (アルペジオ): 原曲は第1番。ヴァイオリンのように1段で記譜され、左右の手が交差する特徴的な書法が用いられています。テンポが速く、同音連打が難しいため、高度な技術が要求されます。
第5番 (狩り): 原曲は第9番。「狩り」という独自のタイトルが付けられています。フルートやホルンの響きを模倣した主題が特徴的です。初版と改訂版では伴奏が大きく異なり、中間部の音階パッセージや主題再現部に違いが見られます。
第6番 (主題と変奏): 原曲は第24番。原曲に忠実な進行で、最終変奏が拡大されています。華麗な変奏曲で、曲集の締めくくりにふさわしい作品です。

初版について

初版の『パガニーニによる超絶技巧練習曲』は、リストの作品の中でも特に難易度が高いとされています。近年では、複数のピアニストによって録音が行われています。

備考

『パガニーニによる大練習曲』を演奏する際に、誤って『パガニーニによる超絶技巧練習曲』とクレジットされることがあります。フェルッチョ・ブゾーニがこの作品を2度改訂しており、第6曲は大幅に書き換えられています。

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